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翌日。
俺とプリシラとスセリは城を出て町を見て回っていた。
キィは和平の件に関して国王や大臣たちと話があるという。マリアはその補佐として選ばれた。
「なんだかさみしい町ですね」
プリシラがぽつりとつぶやく。
ディアトリア王国の城下町だけあって規模は大きいが、やはり大国グレイス王国とは比較にならない。
ただ、それを考慮から除いてみても、城下町というにはうら寂しい雰囲気がした。
町で見かける人々の顔は一様にどんよりとしている。
みんな活気がない。
壁に寄りかかって死人のように動かない者までいる。
ディアトリア王国は上流階級層が富を独占し、彼らに都合のよい悪政を敷いているという。
だから一般国民が暮らす町並みにさびれた空気が漂っているのだろうか。
これでは独立を決意する者が出るのも当然だ。
「アッシュよ。道端で腹を空かしている子供がいても手を差し伸べる出ないぞ」
「わ、わかってる」
中途半端な同情はかえって混乱を招く。それは救済ではなく自己満足に過ぎない。よその国から来た俺たちならなおさらだ。
俺たちのやるべきことは一つ。和平の交渉の約束を結ばせること。
……しかし、それでこの町の人たちは救われるのだろうか。
イス帝国の国民は救われたとしても、ディトリア王国に残された国民は……。
「待ってください!」
そのとき、女性の声が響いてきた。
俺たちは一斉に声のしたほうを向く。
そこには二人の兵士にすがりつく町民の女性の姿があった。
「どうかそのお金だけは持っていかないでください!」
「うるさい!」
すがりつかれていた兵士の一人が女性を強引に引きはがす。
「税金を収めるのは国民の義務だ」
「しかし、そのお金がなければ私たち一家は食べていけません!」
「知ったことではない!」
女性は何度も兵士たちにすがりつくが、そのたびに彼らは女性を突き飛ばす。
「アッシュさま……」
プリシラが俺に目でうったえてくる。
スセリがわざとらしく肩をすくめる。
「あーやれやれ、かわいそうな惨状じゃのう。さあ、さっさと行くの――じゃあ!?」
スセリはセリフの最後に声をうわずらせた。
それもそうだろう。
俺が兵士たちの前に立ちはだかったのだから。
眉をひそめる二人の兵士。
「なんだ、きさま」
「その袋の中に入っている金を見せてもらう」
「な、なんだと!」
「その税金、本当に正しい額なのか確かめるんだ」
俺がそう言ったとたん、兵士たちがろこつにうろたえだした。
「た、正しい額に決まっている! 我々兵士を疑うのか!」
「正しい額なら、数えさせてもらってもいいはずだが」
平然とした表情で俺は続ける。
「最近こんなうわさが広まっているんだ。税を徴収する兵士たちが余計に税金を国民から取り立て、余分な額を懐に入れていると」
「ぐっ……」
兵士の片方が槍の矛先を俺に向けようとする。
しかし、もう片方の兵士がそれを制した。
……いつのまにか、大勢の野次馬が俺たちを囲っていたからだ。
「さあ、取り立てた税金の額を確かめさせてくれ」




