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キィが呆れたふうに首を振る。
「アッシュ・ランフォード。きさまはどこまでお人よしなんだ」
「別にお人よしじゃない。俺は一番適切な選択をしたと思っている」
「わたしもそう思いますっ」
プリシラが即座に同意してくれた。
マリアもスセリはそうらしい。
ため息をつくキィ。
「だが、三度目はないぞ。次にやつらと会ったときは確実に排除する」
こうして俺たちは再び馬車を進ませた。
スセリが御者の代わりにたづなを握って。
それから夕刻、イス帝国の領地へと足を踏み入れた。
門番に取り次ぎ、それから跳ね橋を渡って都市へ。
ありふれた城下町だ。
王都にはほど遠いが、それなりの規模はある。
王都と違うのは、哨戒する衛兵の数がやたら多いこと。
まもなく戦争がはじまるというのを感じる。
王城へと到着する。
王城は王都のきらびやかな王族の住居というよりも、戦いに備えるための要塞といった外観だった。
ものものしい。
「グレイス王国からの使者だ。皇帝陛下に取り次いでくれ」
「使者だと?」
王城の門番たちがいぶかる。
疑うのも当然か。俺たち全員未成年だからな。少なくとも外見は。
「これを見せれば信じてくれるだろう」
キィは封蝋で封をされた書状を渡す。
顔をしかめつつも、門番の一人はそれを受け取って渋々城内へと入った。
「今のは?」
「国王陛下の印が押された正式な書状だ」
「なるほど」
しばらく待つと、門番が一人の中年男性を連れて戻ってきた。
中年男性が笑みを浮かべて言う。
「ようこそ、和平の使者よ。イス帝国は諸君を歓迎する」
その立派な身なりと口調から察するに、王城でも結構な立場の者なのだろう。
おそらくは大臣。
「私の名はヴェルナー。イス帝国の宰相だ」
王城の廊下を歩きながらヴェルナー宰相はそう簡潔に自己紹介した。
「ディアトリア王国から独立した我々はむろん、自由を手に入れるためならば戦いも辞さない。だが、争わずして解決するのならそれに越したことはない」
「その気持ちは皇帝陛下も同じですか?」
「ああ。当然だとも」
ヴェルナー宰相がキィに尋ねる。
「グレイス王国はイス帝国に味方してくれるだね?」
「私たちは交渉の場を設けるために来たのです」
「それで結構」
国王陛下はディアトリア王国の肩を持つと言っていたが、どうやらキィはあえてそこをごまかした。
玉座の間。
玉座にはやせた男性が座していた。
彼がイス帝国の皇帝か。
「和平の使者たちよ、はるばるご苦労だった。グレイス王の書状によると、我々とディアトリア王国が交渉するための席を設けてくれるのだとか」
「さようでございます」
「『帝国』と格好をつけて名乗っているものの、しょせん我々は烏合の衆。グレイス王国ほどの大国が取り持ってくれたのは渡りに船だ」
「それぞれの国が納得のいく結果になるよう、尽力する次第です」
「助かるよ」




