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115-3

「大気よ!」


 俺が魔法を唱えると、立ち込めていた霧が一層濃くなった。

 そして、俺の作戦は成功した。

 霧が濃くなって大気中の水分が増したことで、空中に浮遊して攻撃の出番を待っていたつららにさらに氷が付着し、大きくなって地面に落下した。


「ぐっ」


 ちびのこぶしの氷も同じく、余分に氷が付着して肥大化した氷のこぶしは極端に重くなり、ずしんと地面に落ちた。

 ちびはこぶしを持ち上げようとするが、重すぎてびくともしない。

 武器としていた用いていた氷はこの瞬間、自身の動きを封じる枷になったのだ。


「動くな。お前の負けだ」

「くっ……」


 俺は剣の切っ先をちびの喉に向けた。


「のっぽ! お前の仲間は倒したぞ! 降参しろ!」


 沈黙。

 しばらくすると、俺の背後にのっぽのほうが現れた。

 プリシラ、マリア、スセリ、キィもやってくる。


「武器を捨てろ。さもなくば」


 とんだふぬけな俺は、そこで声を詰まらせてしまう。


「さもなくば命はないぞ」


 キィが代わりに言ってくれた。

 のっぽのほうの暗殺者は表情。無言。

 ちびのほうが笑う。


「バカめ。アタシが人質になるとでも思ったか?」


 自分たちはいざとなれば平然と仲間を見捨てられると言いたいわけか。

 だが、以前の戦いで知っている。のっぽがちびを助けたのを。


「アタシを殺した瞬間、隙のできたお前たちはそっちが皆殺しにするだろうな」


 ちびの言うとおり、ちびを殺そうと動いた瞬間、のっぽはその隙を見計らって攻撃を仕掛けてくるだろう。

 実際、のっぽからはひりつくような殺気を感じる。

 俺たちを殺す好機をうかがっている。


「……取引しようではないか」


 のっぽが提案してくる。


「こいつを解放すれば私は霧を晴らし、お前たちに危害を加えず立ち去る」

「ふざけるな。主導権は私たちにあるんだ」

「そうかな? その気になれば私はなりふり構わずお前たちを殺せる」


 はったりではない。

 のっぽはちびを見捨てさえすれば俺たちを全員殺せる。

 それが出来なくても、少なくとも手負いにはできる。和平の使者である俺たちがそうなれば、こいつらを雇った者の勝ちだ。


「私が本気を出せば10体の分身を出せる。お前たちはそれらをすべていなすことができるか?」


 実質。数ではあちらが上回っているということか。


「キィ。俺たちの目的はこいつらを倒すことじゃない」

「……くっ」


 キィはくやしげだった。


「アッシュ・ランフォードとその仲間たちよ、私たちから離れろ」


 言われるまま俺たちは暗殺者たちから離れる。

 のっぽがちびの氷を砕く。

 そしてすぐさま濃霧の中に消えた。


 キィが歯ぎしりする。


「敵をみすみす逃すなんて」

「無傷でやり過ごせただけよしとしようではないか」


 濃霧が晴れ、風景はありふれた街道に戻った。

 当然、二人の暗殺者はどこにもいなかった。

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