12-2
スセリは肉体から魂を脱して別のものに宿らせた。
セヴリーヌは己の時間を凍結させて老化を止めた。
二人とも不老の身だが、そのための手段は異なっているのであった。
「永遠の子供というわけですね」
「子供じゃないっ」
ディアのつぶやきにセヴリーヌが反応した。
だんっ、とテーブルをこぶしで叩く。
見事に子供の反応だった。
「さて、本題に戻るぞ」
スセリがテーブルに両肘をつき、手にアゴを乗せてセヴリーヌを見据える。
「セヴリーヌ。もう一度言う。ワシの新たな依り代を生み出すために力を貸してくれ、なのじゃ」
「やだねーだっ」
相当嫌われているな、スセリ。
「なあ、セヴリーヌ。お前はどうしてそんなにスセリを嫌ってるんだ?」
おそらくスセリ以外の全員が抱いている質問を俺がした。
その理由はスセリがしてくれた。
「くだらん話なのじゃ。セヴリーヌが好いておった男とワシが結婚したからじゃよ」
「ええっ!?」
「まさかの恋愛関係ですか!」
ディアとプリシラが驚いた。
俺も同じだった。
セヴリーヌは怒りで顔を真っ赤にして、目には涙をためて、くやしげに歯ぎしりしている。
「アタシはリオンのことが好きだったんだ。リオンもアタシのことが好きだって言ってくれてたんだぞっ。それをスセリは横取りしたんだ!」
「恋愛に横取りもなにもないのじゃ。最終的に相手を惚れさせたほうが勝ちなのじゃ」
そのリオンという男性をめぐって、スセリとセヴリーヌの三角関係があったのか。
「……ぐすっ」
泣きべそをかいたセヴリーヌが鼻をすする。
「大人になったら結婚しよう、ってリオンと約束してたのに……」
「おぬしは永遠の子供になるのを選んだのじゃ。リオンとは結婚できんかったのじゃよ」
「アタシは大人だっ」
死という運命から逃れるために背負った『永遠の子供』という枷。
そのせいで彼女は想い人と結ばれなかったのだ。
リオンは大人になったスセリと恋仲になり、結婚し、子孫を残し、そして年老いて寿命をまっとうした。
スセリはそう語った。
「ぐすっ……。スセリのこと、ぜったいぜったいゆるさないんだからな……」
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしているセヴリーヌ。
不老不死はあらゆる権力者が最終的に追い求めてきたが、彼女を見ていると、それは必ずしもよいものではないのだろう、と考えさせられる。
セヴリーヌはこれからも責任とは無縁の、自由奔放でわがままで、泣きべそかきな10歳の少女として生きていかなくてはならないのだろう。
分別というものも永遠に理解できず、『好き』と『好き』の違いも理解できず、家庭も持てず、大人の意味も理解できず、ずっと誰かに庇護される側の子供のまま。
永遠に大人になれないセヴリーヌ。
泣きべそをかく彼女がかわいそうに見えた。
「アッシュさま」
プリシラが俺に耳打ちしてくる。
「セヴリーヌさまに協力していただけるかもしれない案があるのですが」




