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キィはうつむいたままなにやら考えごとをしている。
やはり自分の使命が気がかりなのだろう。
そう思っていたら、彼女はおもむろにテーブルの呼び鈴を鳴らした。
「どうされました?」
呼び鈴の音を聞きつけて店員の少女がやってくる。
キィは注文を言うでもなく、彼女をじっと見上げていた。
首をかしげる店員の少女。
「ご用件は――」
「お前、もしかしてエナか?」
「えっ?」
キィにそう言われ、店員の少女はぽかんと口を開けた。
「は、はい。私はエナといいます。どこかでお会いしましたでしょうか?」
「私を忘れたのか。私はキィだ」
「えっ!? キィちゃん!?」
エナと呼ばれた店員の少女は驚いたようすでそう言った。
「最後に会ったのは5年くらい前だよね。成長しててわかんなかったよ」
「確かに。あの頃の私はおさなごだったからな」
「それにしても、どうしてキィちゃんがここに……」
「それは私のセリフだ。どうして貴族のお前がこんなところで働いている」
「それは……」
どうやら二人は幼馴染の関係らしい。
このエナという少女も貴族の令嬢のようだ。
「私、見ちゃったの」
「なにを?」
「お父さんとお母さんが魔物の姿に変わったのを!」
「どういうことだ!?」
「わかんない。3年前、たまたま見ちゃったの。両親の姿が魔物に変わって、すぐにまた人間の姿に戻ったのを」
魔物が両親に成り代わったのか、あるいはもともと魔物だったのか。
いずれにせよエナは恐怖と身の危険を感じ、実家から逃げ出してきたという。
それからこの喫茶店を経営する夫婦のもとに身を寄せて、こっそりと暮らしてきたのだった。
人間の姿に化けた魔物は今も領主として暮らしてるとのこと。
「お父さんとお母さん、きっと魔物に食べられちゃったんだよ……」
「……」
そんなことはない、と言ってあげられないくやしさがキィの表情に出ていた。
魔物が人間を殺して成り代わって生活を乗っ取る例は少なからずある。
エナの両親もおそらくは魔物に殺されたのだろう。
「お願い、キィちゃん。私の家を取り返して!」
目に涙を浮かべたエナがキィの両手を握って懇願した。
キィが動揺の表情を見せる。
迷っている。己の使命を優先すべきか、幼馴染を助けるべきか。
「食べたのじゃ」
そんなときだった。スセリがそう言ったのは。
気がつくと、スセリは特大パフェを跡形もなく平らげていた。
「スセリさま、いつの間に完食しましたの!?」
「お、お客さま、よく食べられましたね……」
「容易い容易い、のじゃ」
いくらなんでもおかしい。
あの量をこの短時間でなんて不可能だ。
きっと魔法を使ってズルをしたに違いない。
どうせ転移魔法でパフェを異空間に送ったのだろう。
スセリがむざむざ敗北を喫するなどありえないからな。
「あ、あの、カメラという古代の道具で写真というものを撮らせてもらっていいですか? 完食した人は記念に姿を写したのをお店に飾ることになってますので」
「よいぞ。この角度から撮るがよい。このアングルから見るのが一番美しいのじゃ」
そういうわけでスセリの写真が額縁に入れられてお店に飾られたのだった。




