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あからさまに店員がうろたえる。
「特大パフェに挑戦されるのですか!?」
「うむ。早く持ってくるのじゃ」
「かっ、かしこまりました!」
ああ、頼んでしまった……。
もはや後には引けない。
「スセリ。本当に完食できるんだろうな……」
「スセリさま。完食できなかったらお代を払わなくちゃいけないんですよ」
「いい感じに空腹じゃからいけるのじゃ」
本人は自信満々だが不安だ。
「それにしても、なかなかおしゃれな雰囲気ですわね」
喫茶店の店内は王都のそれのように垢抜けた内装をしている。
しっとりと落ち着いた雰囲気。
恋人同士がデートに訪れるにはうってつけだろう。
「……」
キィは注文してからというものずっと黙っている。
道草を食っている場合じゃないからな……。
「キィ。気持ちはわかるが、休憩するのも大事だぞ」
「……ん、ああ。いや、別のことをちょっと考えていた」
「別のこと?」
「ちょっと、な。個人的なことだ」
「おまたせいたしました」
店員が注文の品を持ってきた。
テーブルに四人分のケーキと五人分のコーヒーが並ぶ。
それからいったん店員は奥に帰ると、巨大なパフェを持って再び戻ってきた。
「……」
でん、とテーブルに鎮座するパフェ。
でかい。
巨大なクリームの山だ。
大きなガラスの器にふんだんにフルーツが詰め込まれ、そこにアイスクリームに生クリームがぶちまけられてコーンフレークがかけられて、ウェハースが突き刺さっている。おまけにそこにチョコレートソースがかけられたそれは暴力的な迫力があった。
「……」
スセリの表情は引きつっている。
こんなの食べられるわけがない。
物理的にこの量が彼女の胃袋に収まるわけがない。
店員の少女も苦笑いを浮かべている。
「で、では、制限時間内に召しあがってくださいね。あはは……」
「う、うむ」
店員の少女は足早に去っていった。
スセリはおそるおそるスプーンを手にし、パフェの山を食らう。
減っているようすがみじんも感じられない。
「だからやめておけって言ったんだ」
「き、気が散るから話しかけるでない」
早くもうんざりとした表情をしている。
この圧巻の姿を目の当たりしたら戦意喪失するのも当然だ。
このスイーツの山を平らげるには途方もない年月を要するだろう。
気の毒というか、自業自得というか……。
少々痛い出費だが、これに懲りたらもう無謀なまねはしまい。
残した分は取り皿に分けてみんなで食べよう。
さいわいにも味はおいしそうだ。
苦役を課せられた囚人のようにスプーンでパフェの山を掘るスセリ。
そんな彼女をしり目に俺たちはケーキを食べるのだった。




