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114-4

 あからさまに店員がうろたえる。


「特大パフェに挑戦されるのですか!?」

「うむ。早く持ってくるのじゃ」

「かっ、かしこまりました!」


 ああ、頼んでしまった……。

 もはや後には引けない。


「スセリ。本当に完食できるんだろうな……」

「スセリさま。完食できなかったらお代を払わなくちゃいけないんですよ」

「いい感じに空腹じゃからいけるのじゃ」


 本人は自信満々だが不安だ。


「それにしても、なかなかおしゃれな雰囲気ですわね」


 喫茶店の店内は王都のそれのように垢抜けた内装をしている。

 しっとりと落ち着いた雰囲気。

 恋人同士がデートに訪れるにはうってつけだろう。


「……」


 キィは注文してからというものずっと黙っている。

 道草を食っている場合じゃないからな……。


「キィ。気持ちはわかるが、休憩するのも大事だぞ」

「……ん、ああ。いや、別のことをちょっと考えていた」

「別のこと?」

「ちょっと、な。個人的なことだ」

「おまたせいたしました」


 店員が注文の品を持ってきた。

 テーブルに四人分のケーキと五人分のコーヒーが並ぶ。

 それからいったん店員は奥に帰ると、巨大なパフェを持って再び戻ってきた。


「……」


 でん、とテーブルに鎮座するパフェ。

 でかい。

 巨大なクリームの山だ。


 大きなガラスの器にふんだんにフルーツが詰め込まれ、そこにアイスクリームに生クリームがぶちまけられてコーンフレークがかけられて、ウェハースが突き刺さっている。おまけにそこにチョコレートソースがかけられたそれは暴力的な迫力があった。


「……」


 スセリの表情は引きつっている。

 こんなの食べられるわけがない。

 物理的にこの量が彼女の胃袋に収まるわけがない。


 店員の少女も苦笑いを浮かべている。


「で、では、制限時間内に召しあがってくださいね。あはは……」

「う、うむ」


 店員の少女は足早に去っていった。

 スセリはおそるおそるスプーンを手にし、パフェの山を食らう。

 減っているようすがみじんも感じられない。


「だからやめておけって言ったんだ」

「き、気が散るから話しかけるでない」


 早くもうんざりとした表情をしている。

 この圧巻の姿を目の当たりしたら戦意喪失するのも当然だ。

 このスイーツの山を平らげるには途方もない年月を要するだろう。


 気の毒というか、自業自得というか……。


 少々痛い出費だが、これに懲りたらもう無謀なまねはしまい。

 残した分は取り皿に分けてみんなで食べよう。

 さいわいにも味はおいしそうだ。


 苦役を課せられた囚人のようにスプーンでパフェの山を掘るスセリ。

 そんな彼女をしり目に俺たちはケーキを食べるのだった。

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