114-3
四体の分身が消える。
背の高いほうの暗殺者が懐に手を入れる。
そこから球体を取り出すと、地面に叩きつけた。
ぼふんっ、と球体が破裂して立ち込める煙幕。
視界が一瞬にして奪われる。
俺たちは咳き込む。
視界が晴れると二人の暗殺者はこつ然と姿を消していた。
逃げられた。
かっこよく言えば『追い払った』か。
キィが剣を鞘にしまう。
「ヴォルカニア帝国め。やはり刺客を差し向けてきたか」
ヴォルカニア帝国は火薬の原料である硝石を高騰させるため、ディアトリア王国とイス帝国の戦争を望んでいる。
だから和平の使者である俺たちを始末しようとしているのだ。
一度追い払ったくらいではやつらは諦めないだろう。これから幾度も戦いになる。
「それにしても卑劣ですわね。乗客を巻き込んでくるだなんて」
「念のために列車は貸し切りにすべきだったな」
それからキィはこう提案してきた。
「近くにちょうど町がある。乗客には全員、そこで降りてもらう」
「そ、それはちょっと乱暴じゃないか……?」
俺が反対すると彼女はため息をついた。
「私たちには大事な使命があるんだぞ。そんなこと言っている場合か」
「だとしても、列車を譲るのは迷惑をかける俺たちのほうだ」
「……まったく。こんなお人よしがよく今まで生き延びてこれたな」
「『こんなお人よし』だから生き延びられたんだ」
結局どうしたかというと、俺たちは列車での移動をあきらめ、最寄りの町で馬車を借りたのだった。
「王命を受けた私たちには列車を占有する権限があるというのに……」
キィは最後まで納得してくれず、ぶつくさ文句を言っていた。
「あれ? どうしたのですか? スセリさま」
宿屋に向かう途中、スセリが一軒の店の前で立ち止まった。
おしゃれな喫茶店だ。
スセリが店に貼られた張り紙を指さす。
「おもしろそうな催しをしておるぞ」
――特大パフェ大食いチャレンジ! 制限時間内に完食で賞金を差し上げます!
張り紙にはそのパフェの絵が描かれていた。
山のようなパフェだ。
「ははっ。見ただけで胸焼けがしてくるな」
「よし、ワシはこれに挑戦するぞ」
「なんだって!?」
「突然なにを言い出しますの? スセリさま」
「遊んでいる場合じゃないぞ」
スセリは不敵な笑みを浮かべている。
「ちょうど腹が減っておったのじゃ。ワシが平らげてくれよう」
スセリは俺たちの制止も聞かず喫茶店に入ってしまった。
フリルがたくさんあしらわれた制服の店員に席へと案内される。
「ご注文をお伺いします」
「特大パフェを一つ」
ドヤっとした顔でスセリが言った。




