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「お前たちはノッポの相手をしろ。私はチビを始末する!」
「戦力は均等に配分したほうがよいと思うがの」
「私は一人でじゅうぶんだ!」
キィは再び小さい暗殺者に向かっていった。
残りの俺たち四人は背の高いほうの相手か。
暗殺者は刀身の短い剣を構える。
「お前たちの情報は事前に得ている。お前たちを片付け、任務完遂と同時に魔書『オーレオール』をいただく」
「やれやれ。ワシらに勝てると思っておるのか?」
「多勢に無勢を教えてさしあげますわ!」
「多勢に無勢? それはこちらのセリフだ」
暗殺者の輪郭がぶれる。
思いもよらぬことが起こった。
暗殺者の輪郭が大きくぶれ、左右に二つの分身を生み出した。
さらにそこからもう一体ずつの分身が出現し、暗殺者は五人に増えたのだ。
分身の魔法を使ったのか。
分身は各々意思を持っているらしく、素早く移動して俺たちを包囲した。
なるほど。俺たちのほうが無勢だったわけだな。
「動くと急所がずれる。黙って死ぬのを待つのが賢明だと忠告しよう」
「この暗殺者、意外と口数が多いの。程度が知れるのじゃ」
「ふっ、愚かな」
分身を含めた暗殺者五人が一斉に襲い掛かってきた。
俺たちはそれを迎撃する。
それぞれ一人ずつ。
余ったもう一人はスセリが余分に受けてくれた。
恐るべきことに、彼女は二人を相手にしているというに余裕の動きで翻弄していた。
「アッシュ・ランフォードよ。ここが貴様の墓場だ」
目で追っていたところ、どうやら俺が相手をしているやつが本体らしい。
近づいては離れ、近づいては離れ、剣と剣を幾度も打ち合う。
絶え間ない攻撃のせいで魔法を唱える隙がない。
「せめてもの慈悲だ。墓標くらいは立ててやろう」
本当に口数が多いな、こいつは。
「おしゃべりが過ぎると舌を噛むぞ」
スセリをまねて軽口を言ってみたが、言った直後に恥ずかしくなった。
互いに正面から何度も剣を打ち合う。
どうにか隙を見計らって魔法を放つも、あっさりとかわされてしまう。
当たり前だがこいつ、人間との戦いに慣れている。
今のところ互角の戦いだが、消耗していずれ致命的な隙をさらすのは素人の俺だ。
その前に決着をつけないと。
そんなことを思っていると、近くから悲鳴が聞こえた。
「きゃあっ!」
誰の声だ!?
暗殺者の動きがぴたりと止まる。
そしてつい今まで相手をしていた俺を放置して、相方のほうへと駆けていった。
相方の小さいほうは頬に赤い一本の傷をつけてうずくまっていた。
そこに背の高いほうがやってきて、心配そうに顔を覗く。
「だいじょうぶか?」
「へ、平気……」
「勝負あったな」
キィは剣の切っ先を小さいほうにつきつけていた。




