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故障したのだろうか。
呆然としていると、キィが立ち上がって俺たちをせかした。
「すぐに外に出ろ!」
車掌の制止も聞かず彼女はドアを開けて外に飛び出した。
困惑しつつ俺たちもそのあとに続いた。
列車は荒野のど真ん中で止まっていた。
イス帝国の姿はまだまだ見えない。
「れ、列車が凍っています!」
列車が停止した理由はすぐにわかった。
わかったが、あまりにも不可解だった。
車両の車輪に氷が付着して氷漬けになっていたのだ。
自然現象とは思えない。
魔法によるものか。
しかし、なんのために、誰が……。
「なるべく列車から離れるぞ!」
「キィ、理由を説明してくれ!」
「これは和平の使者である私たちを狙う者たち――暗殺者の仕業だ」
合点がいった。
ここにいると、列車にいる人たちがその暗殺者たちの犠牲になりかねない。
なるべく遠くに逃げ、戦いに巻き込まないようにしないと。
「あれを見るのじゃ!」
スセリが列車の上を指さす。
列車の屋根に黒い外套をまとった人間が二人、立っていた。
こいつらが暗殺者……。
俺とプリシラとマリア、そしてスセリとキィは全速力で列車から離れて逃げた。
暗殺者二人も屋根から飛び降りて追ってくる。
背の低いほうの暗殺者が手から氷の刃を放つ。
その攻撃魔法を俺はとっさに作った障壁魔法で相殺した。
痛いほどの冷気がかざした手に伝わってくる。
スセリが反撃を繰り出す。
手から魔法の矢が放たれる。
背の高い暗殺者が俺と同じく障壁魔法を作ってそれを打ち消した。
列車からだいぶ離れた。
俺たちは暗殺者たちを返り討ちにすべく、立ち止まった。
凸凹暗殺者二人も立ち止まる。
「どうしてじゃまをするのですか!」
プリシラが叫ぶ。
「わたしたちが仲直りのお手伝いをしないと、戦争になっちゃうんですよ!」
「……」
暗殺者二人は返事をしない。
かと思いきや、背の低いほうが言葉を返した。
感情のこもっていない、冷たい声で。
「だからどうした」
「『どうした』って……」
「我々は与えられた任務――貴様らの暗殺を遂行するのみ」
「こやつらもあくまで仕事でこうしておるのじゃよ、プリシラ」
キィが鞘から剣を抜く。
「ヴォルカニア帝国の差し金か?」
「暗殺者が雇い主の名を言うと思うのか?」
「思わないな!」
キィは剣を構えて接近を試みた。
背の低いほうが手をかざす。
その手から無数の氷のつぶてが発射される。
キィは剣を降って氷のつぶてを打ち払う。
剣の間合いに入った瞬間、彼女は剣を真横に薙いだ。
暗殺者たちは飛び退いて回避する。




