113-5
リザードが突進してくる。
間一髪で回避。
リザードは俺たちを通り過ぎ、背後の大木にずしんと激突した。
「ひえええ……」
大木はみしみしと軋みながら折れて倒れた。
氷の息と巨躯による突進。
いずれも回避し損ねれば一撃でおしまいだ。
キィは果敢に攻撃を繰り返すも、その手に持った剣の刃は固いうろこを斬ることはかなわなかった。
プリシラのロッドによる打撃も通じず、マリアの魔法でもびくともしない。
「アッシュ。どうにかなりませんこと?」
考える。
こいつに通常の攻撃は効かない。
ならば通常『ではない』攻撃を試してみるまでだ。
「リザード、これを見ろ!」
俺は金属召喚である物体を召喚した。
それはブリキの兵隊人形。
兵隊人形はねじ巻き式のおもちゃで、ねじを巻くとラッパを鳴らしながら歩きだす。
俺は急いでねじを巻くと、兵隊人形を地面に置いてその場を離れた。
兵隊人形はラッパを鳴らしながら歩きだす。
リザードはぐるるとうなりながら、正体不明のその物体を威嚇する。
兵隊人形はどんどんリザードから離れていく。
獲物を逃がしてなるものか、と思ったのだろう。ついにリザードが兵隊人形に突撃をかました――兵隊人形がすでに崖っぷちまで到達していたのにも気づかず。
兵隊人形が足を踏み外して崖から落ちる。
そして必然的に、それを捕まえようとしたリザードも崖から転落してしまった。
数字を3つ数えたのち、ずしん! とリザードが地面に激突する大きな音が聞こえた。
キィが崖っぷちで屈んで崖下を覗く。
「リザードを転落させる……。そんな方法があっただなんて!」
「リザードは倒せたのでしょうか」
崖を降りて確かめてみると、リザードは転落した衝撃で死んでいた。
「やりたわね、アッシュ」
「……」
キィは真剣な面持ちでリザードの死体を見ている。
「私の負けだ」
「いや、勝ったじゃろ」
「違う。こいつではなく、アッシュに負けたと言ったんだ」
「アッシュさまに負けた?」
「私はただ、目の前の敵に対してやみくもに剣を振るうだけだった。だが、アッシュは違った。持ちうる手段を活用して機転を利かせ、状況を打破した」
キィは自嘲する。
「潔く負けを認めよう」
別に勝負していたつもりはなかったんだがな……。
俺は「ありがとう」とちょっと見当違いな返事をしたのだった。
「どうです? キィさま。アッシュさまはすごいでしょう?」
プリシラは自慢げに胸を張っていた。
スセリが木の棒でリザードの死体をつついている。
「偶然か意図したのか知らんが、きれいな形でリザードの身体が残ったのう。報酬は期待できそうじゃな」
「はく製にして博物館に飾られるかもしれませんわね」
転移魔法で冒険者ギルドに死体を送ろうかと思ったが、こんな巨体がいきなり出現したら大騒ぎになるのは間違いないので、いったんギルドに帰ったのち、応援を連れて持ち帰ったのだった。




