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113-4

「同時に、この子の母親の運命もかかってる」

「お前ってやつは……」


 キィは呆れたようすで首を振った。


「失望したか?」

「いや……。ただ、お人よしだな、お前は」

「アッシュとはそういう人間のじゃよ。のじゃじゃじゃじゃっ」


 果たして『そういう』とは『どういう』なのか。

 ほめては……いないな。


「しかし、アッシュよ。そんな調子で道草を食っておってはイス帝国に着くころにはワシら、ジジイとババアになっておるぞ」

「大げさだな……」

「わたしはアッシュさまに賛成ですっ。困っている人を見過ごせませんっ」

「わたくしも賛成いたしますわ」

「ほら、多数で俺の勝ちだ」

「ふーむ、由緒正しき人類最古の発明に従うのなら、請け負うしかあるまいな。のう? キィよ」

「……今回だけだぞ」


 キィはしぶしぶ許してくれた。



 こうして俺たちは薬草採取と魔物討伐をするため、丘へと向かった。

 日が暮れるまでには戻れるだろう。

 ひとけのないさみしい丘を登って、ギルドに教えてもらった特徴に合致する薬草を採取する。


 俺とプリシラとマリアはかがんで薬草を摘む。

 魔物が出現したせいで丘に行けず、町全体で薬草が不足していたため、余分に採取する。その分、報酬も上乗せされる。

 スセリとキィは魔物が来ないか注意深く警戒している。


「お前たちはいつもこんな調子なのか?」

「まあ、こんな調子なのじゃ」

「やれやれ」

「大通りのど真ん中で決闘を挑んでくるヤツに呆れられるとはの」

「決闘には立会人が必要だからな」


 そういう問題か……?


「アッシュさま!」


 プリシラがおもむろに立ち上がり、頭のてっぺんにある獣耳をぴくぴくと動かしだした。


「大きな生き物が近づいてきます!」


 しばらくすると俺たちの耳にも聞こえてきた。魔物の足音が。

 ずしん、ずしんと重い足音。

 林の陰からのっそりとその足音の主が姿を見せる。


「リザード……なのか?」


 リザードと呼ばれた爬虫類型の魔物。

 ただ、俺たちの前に現れたそれは異様に図体がでかかった。

 トカゲというよりは翼をなくした竜とたとえたほうがしっくりくる。


 ギルドで教えてもらったとおりの、規格外の大きさのリザードだ。

 リザードが大きく口を開ける。

 口の中が光った瞬間、俺たちはとっさにリザードの正面から飛びのいた。


 次の瞬間、リザードの口から冷気の息が吐き出され、直線状に霜が走った。

 草花もろとも地面がかちんこちんに凍結した。

 あんなのをもろに浴びたらひとたまりもない。


「てやーっ!」


 キィが剣を振りかぶっておどりかかる。

 リザードの背中に剣を垂直に叩きつけたが、しかし、リザードを守る強固なうろこによって剣の刃は傷一つつけられなかった。

 キィは幾度も斬りかかるが、リザードはびくともしない。

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