12-1
俺とプリシラ、スセリ、ディアはセヴリーヌの家へと入った。
イスに深くもたれて俺たちをじっとにらんでいるセヴリーヌ。
呆れた表情のスセリ。
苦笑いしているディア。
プリシラは台所で紅茶を淹れている。
「『オーレオール』の後継者を見つけたのか」
「そうなのじゃ。『オーレオール』をアッシュに託すため、ワシは新たな依り代が必要なったのじゃ。セヴリーヌ。そのためにおぬしの力を借りにきたのじゃ」
「そんなの自分でどうにかしろっ」
セヴリーヌはべーっ、と舌を出す。
か、完全に子供だ……。
スセリはため息とともに肩をすくめた。
「200年以上も昔のことをまだ根に持っておるのか」
「うっさい!」
セヴリーヌは机に置いてあったカエルの置物を手に取ってスセリに投げる。
スセリは首を少し傾けてそれを避ける。
壁に激突して床に落ちるカエルの置物。
「バーカ! バーカ! スセリなんて大っ嫌いだ! そのまま依り代が見つからなくて消えちゃえ!」
嫌われすぎだろ、スセリ……。
スセリのほうは嫌われていることは大して気にしていないようすで、あくまで拗ねた子供に手を焼いているようすだった。
プリシラが五人分の紅茶をトレイに載せて持ってくる。
カモミールの香りと湯気がテーブルに立ち上る。
「セヴリーヌさまは新しい肉体を見つけてそれに宿ったのですか?」
「違うぞ」
プリシラの質問にセヴリーヌはそう答える。
「アタシは自分の時間を止めて、ずっとこの姿でいるんだ」
「時間を止めて……?」
「こやつは時間凍結の魔法により、老化を止めたのじゃ」
「えーっと……」
よくわからなくて首をかしげるプリシラに、スセリがこう説明を加えた。
この世界には『時間』という概念がある。
時間はあらゆるものに干渉し、その姿をうつろわせる。
種は芽吹き、花を咲かせ、そして枯れる。
卵はかえり、雛となり、成長して鳥となる。
人間もまた時間によって赤子から子供を経て大人になり、やがて老いて死にゆく。
この世界にあるものは例外なく、生まれた瞬間から死ぬ定めを負っているのだ。
生と死は対なるもの。
その片方『死』を持たぬ者が不老の魔術師たち。
セヴリーヌは『時間』の干渉から逃れているのだと言った。
彼女は世界の摂理に抗い、子供のまま200年を生きてきたのであった。
「アタシはスセリと違って完全な不老の魔法を完成させたんだ。すごいだろー」
えっへん、と自慢げなセヴリーヌ。
プリシラとディアはどう反応していいのか困っている。
「本人はそう言っておるが、時間凍結の魔法にも欠点があるのじゃ」
スセリは次のように言った。
時間を凍結して成長を止めるということはつまり、肉体だけではなく精神の成長も止めるということ。
セヴリーヌは10歳のときに時間凍結の魔法を用いて不老の身となった。
そしてその瞬間から、精神の成長も止まってしまった。
彼女は200年経とうが、心はずっと子供のままなのだ。
だからスセリと違い、彼女は言動が外見相応なのであった。
「アタシは子供じゃないぞっ。200歳を超える大人なんだからなっ」
「……まあ、こんな感じなのじゃ」




