113-3
列車が駅に到着する。
まだ目的地ではない。ここはイス帝国へ向かう途中にある小さな町だ。
そこでいったん列車は停まり、燃料の補給や整備をして翌日に再出発する予定となっている。
俺たちはあらかじめギルドに部屋をとってもらった宿屋へ向かった。
質素な宿でチェックインを済ませると俺たちはこの町の冒険者ギルドに赴いた。
旅が順調に進んでいるのをギルドに報告する。
「和平の使者のお仕事、がんばってくださいね」
受付嬢がにこりと言った。
やるべきことをすませ、あとは夕食の時間まで各々宿で過ごす。
……はずだったが、俺の視界にふと気になるものが映った。
少女だ。
プリシラよりも幼いであろう小さな女の子が、依頼の掲示板の前に立っていたのだ。
紙切れを手に、不安げな面持ちでじっと掲示板を見上げている。
「依頼をしたいのか?」
「ひゃっ」
俺が声をかけると、少女は驚いて飛び上がった。
「俺は冒険者だ。仕事を依頼したいのなら請け負おうか?」
「えっ……」
きょとんとする少女。
彼女の警戒を解こうと俺はにこりと笑みを浮かべた。
少女の顔がぱあっと明るくなった……、かと思いきや、すぐにしょんぼりとする。
「依頼したんですけど、お金が……」
「報酬なら心配ない。お金が無くてもギルドが無利子で立て替えてくれるんだ」
「えっと、それって……」
「今、お金が無くても大丈夫なんだ」
「アッシュ・ランフォード」
名前を呼ばれてうしろを向くと、そこには眉間にしわを寄せたキィがいた。
「私たちには大事な使命があるのを忘れていないか?」
「忘れていないさ」
「ならばなぜ、余計な仕事を請け負おうとしているんだ」
それを聞いた少女がびくりと肩をすくませる。
「ご、ごめんなさいっ」
「あっ、いや、そういうことじゃなくて……」
目に涙を浮かべて震える少女を見てキィは動揺した。
プリシラとマリアとスセリもやってくる。
「またアッシュが余計なことに首を突っ込んでおるのじゃ」
「困った人を助けるのは冒険者の使命だ」
「とはいえ、おぬしの身体は一つしかない。ならば優先順位に従って行動すべきじゃろうに」
とりあえず少女から依頼の内容を聞いた。
依頼は薬草の採取。
この町の付近にある丘に生えている薬草を取ってきてもらいたいのだという。
「お母さんが熱を出して……。お医者さんは薬草が必要だって……」
かんたんな依頼だと安心したが、そうはいかなかった。
町のギルドの話によると、近頃その丘に凶暴な魔物が出現するようになったらしい。
この小さな町にいる少数の冒険者ではとても倒せないような強さの魔物だった。
受付嬢は、できることならぜひ俺たちにその魔物を討伐してもらいたいと頼んできた。
キィはあくまでもそれに反対する。
「さっきも言ったが、私たちにはイス帝国の運命がかかった使命がある。もしものことがあったらどうするつもりだ」




