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キィは困惑している。
もしかしたら好意を持って接されるのに慣れていないのかもしれない。
「こ、こんなおいしいものを毎日食べられるのなら楽しいだろうな……」
「てへへ。照れちゃいます」
「プリシラは料理が得意なのか」
「わたしの名前、おぼえていてくれたのですねっ」
「た、大したことじゃないだろ……」
これは絶好の機会だ。
俺は席を立ち、空いた席をキィに譲った。
向かい合う二人掛けの席に女の子四人が座る。
「わ、私たちは国家にかかわる重大な任務の途中なんだぞ」
「だからとって楽しんでいけないわけではあるまい」
「スセリさまのおっしゃるとおりですわよ、キィ」
彼女たちはわいわい雑談に興じる。
キィは戸惑っていたものの、迷惑がってはいないようすだ。
キィのことは、あとは彼女たちに任せよう。きっと仲良くなれるはずだ。
俺は一人、隣の席に座って本を開いた。
本を読みながら、耳に入ってくる彼女たちのおしゃべり。
キィは貴族スレイザール家の娘だとか。
武芸で名を挙げたスレイザール家は、代々王家に使える騎士を輩出してきた。
彼女も騎士でこそないものの、剣の実力を見込まれて国王陛下に気に入られているらしい。
なるほど。だから恐ろしいほどの剣の腕前だったのか。
実力も家柄も伴っているのなら、和睦の使者としては適任だ。
趣味は園芸で、実家には彼女専用の庭があるという。
案外かわいい趣味だ。
「……ふぅん。お前たちは四人で『シア荘』とやらに住んでるのか」
「そうです」
「ということは、全員アッシュ・ランフォードの妻なのか?」
なにげないその一言をつぶやいた瞬間、緊張が走る。
おそるおそる視線を横に向けると、プリシラもマリアもスセリも真顔になっていた。
「将来の妻ですわ」
「いずれお嫁さんにしてもらう予定です」
「まあ、最終的にはワシのものになるのじゃがな」
「まだ結婚してないんだな。まあ、ランフォード家と縁ができるのはいいと思うぞ」
「わたくし、彼から指輪をもらいましたの」
「わたしももらいました」
「ワシはもっと大事なものをもらったのじゃ。のじゃじゃじゃじゃっ」
牽制しあう三人。
ぽかんとするキィ。
俺は戦々恐々としていた。
この列車内で少女三人の壮絶な戦いが繰り広げられるのではないだろうか。
そうなると列車内は大惨事は必至。
「ところでプリシラは花は好きか?」
「あ、はい。わたしもお花を育ててるんです」
「パンジーはどうだ? 私はパンジーが好きなんだ」
「パンジーですかっ。小さくてかわいいお花ですよねっ」
よかった。話題がそれた。
俺は内心ほっとした。




