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113-1

 横目でキィのようすを盗み見る。

 なにか食べている。

 小さいレンガのような固形の物体だ。


 保存に適した携帯食料に見える。

 話しかけるための話題を見つけた俺は彼女に質問した。


「キィ。そのビスケットおいしいのか?」


 キィのうっとうしそうな目がこちらに向く。


「味などどうでもいい。これに水分を含めれば膨張して腹を満たせる。それだけだ」

「俺にも分けてくれないか?」

「……」


 しばらくの沈黙のあと、彼女はビスケットを分けてくれた。

 ぶっきらぼうに腕を伸ばして。


 細い腕だ。

 この華奢な腕で自在に剣を振り回せるのが信じられない。

 あのベオウルフでさえ武器は負担の少ない短剣だというのに。


「じろじろ人の手を見るな。早く取れ」


 せかされた。

 彼女の小さな手のひらに載ったビスケットを取る。


 かじる。固い。

 味は……、二口目で飽きそうだ。

 まるで食用の土。


 本当に空腹を満たすためだけの食糧だ。

 俺たちはプリシラやマリアが作ったおいしい弁当を食べて楽しんでいるというのに……。


「キィ。よかったらプリシラのハンバーガーを食べてみないか?」

「ハンバーガー……? 聞いたことのない料理だな」

「古代文明では人気の料理だったらしい」


 プリシラ手作りのハンバーガーを一個、キィに渡す。

 まじまじと手元のそれを観察する。


「肉と野菜をパンで挟んだ料理。サンドイッチのようなものか」

「肉に絡めたソースがパンに染みておいしいんだ」

「……どれ」


 ハンバーガーをほおばるキィ。

 むしゃむしゃとそしゃくする。


 俺は内心ドキドキしていた。

 プリシラの料理を口にして「くだらない」と言われてしまったら、もはや彼女との距離を縮める手段を失ってしまう。

 俺たちは同じ目的で旅する仲間。できれば仲良くなりたい。


 そんな気持ちはほかのみんなも同じだったらしい。

 プリシラもスセリもマリアも、キィがハンバーガーを食べるようすをじっと見守っていた。


「……んっ」


 もぐもぐと食べていたキィがごくんと飲み込む。

 それから短い沈黙を経て、こう一言、感想を述べた。


「おいしい」

「やりましたーっ」


 プリシラが声を挙げてよろこんだ。

 その反応にキィは目をまんまるに見開いている。


「キィさま。お褒めいただきありがとうございますーっ」

「あ、ああ……」


 照れくさくなったのか、視線をそらして頬をかくキィ。

 やっと彼女の年齢相応のしぐさを見られた。


「食事なんて空腹を満たすためのものだけだとばかり思っていた」

「食事というのは楽しむものなんですよ、キィさま」

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