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新聞によると、貴族の中には平民に味方するものもいて、彼らが団結してイス帝国建国を宣言したという。
しかも、彼らの革命には大国であるヴォルカニア王国が手を貸している。
これは実質、ディアトリア王国とヴォルカニア王国の争いなのだ。
「ワシに言わせればディアトリアの自業自得じゃな」
「だからといって、戦争なんてしちゃいけません」
戦争になれば大勢の犠牲者が出る。
それだけではない。よしんばイス帝国がディアトリア王国に戦争によって勝利したとしても、それ以降は援助をしてくれたヴォルカニア王国の言いなりになりかねない。
独立したと思いきや、傀儡の操り手が変わっただけ、なんてオチはあまりにも不憫だ。
イス帝国が真の平和を手に入れるには、グレイス王国の仲立ちによる和平しかありえないのだ。
「それにしても楽しみですわね。『シア荘』の改装」
にこにこするマリア。
「三階建てにしていただいて、バルコニーも広くしてもらいましょう」
「キッチンも改装していただいて、もっといろんな料理をつくれるようにしてもらいたいですっ」
キッチンを大きくしてもらうのはいい考えだ。
プリシラやマリアが楽しく料理ができるだろうから。
「おぬしら、一番大事なのを忘れておらんか?」
「なんです?」
「決まっておるじゃろ。風呂じゃ。でっかい風呂をこしらえてもらわんといけんじゃろ」
「そうですね!」
「大きな湯船につかってゆっくりする……。ステキですわ」
プリシラもマリアもうっとりしていた。
「せっかくじゃから使用人も雇いたいの」
「スセリさま! このプリシラというメイドがいるのに不満なのですか?」
憤慨してスセリに詰め寄るプリシラ。
彼女はメイドとしての誇りを持っているから、自分では力不足と言われたと思ったのだろう。
「プリシラは冒険者としての仕事もあるじゃろ。今回のように全員で『シア荘』を空けることもあるのじゃから、留守の間、家を管理するものがいたほうがいいじゃろ?」
「うーん、それもそうですね」
「今度、キルステンさまに相談してみましょう」
そんなときだった。
家路に着く途中だった俺たちの前に一人の少女が立ちはだかったのは。
繁華街の大通りのど真ん中で俺たちは立ち止まらざるをえなかった。
「お前、アッシュ・ランフォードだな」
紫色の長い三つ編みが特徴的な少女だった。
年齢はプリシラと同じくらいか。
幼い容貌だけど、口調はやけに淡々としている。
「そうだが、キミは?」
俺の問いかけには答えず、代わりに少女は腰につるしていた剣を鞘から抜いた。
「手合わせ願う」
抜き身の刀身が光を反射する。




