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112-3

 ――ディアトリア王国から一部領土が独立して『イス帝国』設立を宣言してから一か月。高まる緊張。両者の戦争はもはや必至。


 新聞の一面にそう書かれていた。

 イス帝国の独立はこの王都でも最近、もっぱら話題になっていた。

 ディアトリア王国は小さな国とはいえ、このグレイス王国に隣接している。もしイス帝国との戦争が起きたとしたら知らんぷりは決め込めない。


「ディアトリア王国はイス帝国の独立を認めないみたいですね」


 俺のとなりに座るプリシラがつぶやいた。

 冒険者ギルドのロビーに俺と彼女はいる。

 俺たちのほかにも何人か冒険者がいて、掲示板を見たり飲み物を片手にくつろいだりしている。


 独立を認めないは当然だ。勝手に国家を名乗るのを許す国がどこにあるというのか。

 ディアトリア王国とイス帝国は近いうち間違いなく戦争を起こす。


「この国も戦争に参加することになるのでしょうか、アッシュさま」

「ディアトリア王国とは古くから親交があるからな」

「ということは、ディアトリア王国側につくのですね」


 第三者であるグレイス王国に直接害は及ばないだろうが、義理程度には援助しなくてはならないだろう。

 物資の支援、派兵……。

 魔物の討伐ではない。人間と人間の争いに加担するのだ。


「悲しいですね。人と人が争うなんて……」


 しゅんとうなだれるプリシラ。

 人間同士の争いに心を痛めている。

 やさしいな、プリシラは。


「そうだな。とても悲しいことだ。プリシラよ」

「わっ」

「キルステンさん!」


 俺とプリシラが驚いて振り返ると、そこにはギルド長のエトガー・キルステンさんが立っていた。


「それに比べてお前はまるで他人事だな。アッシュ・ランフォード」

「ま、まあ、よその国の内乱ですし」


 俺がそう言うとキルステンさんはなにか考えるようにあごに手を添える。


「あいにくだが、この内乱は新聞の記事越しの出来事だけでは済まないのだ。我々にとって」



 それから俺とプリシラ、そしてスセリとマリアの四人はキルステンさんに連れられて王城へとやってきた。

 玉座の間。

 玉座には国王陛下が座っていて、その左右には王妃とラピス王女が立っている。


「ワシらを和平の使者として送り出すとは、まったく迷惑じゃのう」


 スセリが陛下の前で平然と毒づいた。

 彼女の言うとおり、俺たちは王国から依頼を受けたのだった。

 ――ディアトリア王国とイス帝国の和平を結ばせるための使者になってほしい、と。


「『稀代の魔術師』よ、『身に余る光栄でございます、陛下』とお世辞の一言も言えんのか」

「ワシがそんなセリフを言うと思うか?」

「言った日には空から槍が降るだろうな」


 二人はそんな軽口を交わす。

 咳払いする陛下。


「とにかく、和平の使者になってくれるな? アッシュ・ランフォードとその仲間たちよ」

「身に余る光栄でございます、陛下」

「お前も冗談を言えるのか」


 俺はそんなつもりはなかったのだが、陛下は目をぱちぱちとさせていた。


「争いをやめさせるためのお仕事ですねっ。よろこんでさせていただきますっ」


 プリシラはうれしそうだった。

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