111-6
街角お姫さまコンテストまであと3日と迫ったころだった。
思わぬ事態が起きたのは。
「わたくし、参加をやめますわ!」
マリアが悲壮な表情でそう言ってきたのだった。
その場にいた俺とスセリはぽかんとする。
「ど、どうして……。今までがんばって練習してきたじゃないか」
「臆病風に吹かれるような性格ではあるまい」
「じ、実はわたくし……」
その先は言いづらいのか、視線をそらしてもごもごと口ごもっている。
「誰かに強迫されたのか? 参加を取りやめろ、って」
「い、いえ、そういうのではありませんの……」
マリアはついに意を決してこう言った。
「……わたくし、太りましたの」
「……え?」
「太っちゃいましたの!」
意外な言葉だった。
彼女は今にも死にそうなほど深刻そうな顔をしているが、俺の目にはいつものマリアにしか見えない。
「太っているようには見えないんだが」
「だって、こんなに体重が増えましたのよ!」
マリアが増えた分の体重を告白する。
その量は夕食を少し食べ過ぎたら増える程度の誤差だった。
日常でこれくらい上下するだろう。
マリアはがっくりとうなだれている。
かなり落ち込んでいる。
「そもそもわたくし、世間一般の女性より体重が重いんですの」
「……」
「……」
「そこは否定いたしませんの!?」
俺とスセリは目配せしあってうなずいた。
マリアが同年代の女子と比べて体重が重いのは「そうだろうな」と納得できる。
ただ、その理由を異性である俺の口からは容易にはできない。
「重いのは胸の分の重さじゃろ」
スセリが代弁してくれた。
マリアは豊満な胸の持ち主。
当然、その分、体重も重くなるだろう。
「なんともぜいたくな悩みじゃのう」
「分けてあげられるのなら分けて差し上げたいですわ……」
「とにかく、マリアは深刻なほど太っていないから、気にしなくていいぞ」
「アッシュに恥をかかませんこと?」
「逆だ。こんなお姫さまのナイトになれて誇らしいさ」
「まあ、アッシュったら」
マリアは頬を染めたのだった。
どうにか説得できた。
マリア、自分が魅力的な女性であるのに無自覚だったなんてな。
スセリが端末に指を走らせる。
「アッシュは胸の大きな女性が好み、と。メモメモなのじゃ」
「それってメモする必要あるのか……?」
「大ありじゃ。この身体に寿命が訪れて次の肉体に魂を移すとき、豊満な女性の肉体を選ばなくてはいけないからの」
「そのころは俺もとっくに寿命で死んでいるんじゃないか?」
「安心せい。セヴリーヌに頼んでこっそりおぬしを不老にしてやる計画を――おっと、これは秘密じゃった」
わざとらしくスセリは口を滑らせた。
とりあえず、寝る前にはしっかり部屋にカギをかけないといけないようだ。




