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111-3

「……そうですね。互いのためにも交流すべきかもしれません」

「仲良くするのは大事なことなのですっ」


 聖杖アルカレイドをグラヴィル伯爵のもとへ持ち帰ると、彼は文字どおり泣いてよろこんだ。


「ありがとう、アッシュくん! これで我がオード領は安泰だ!」


 グラヴィル伯爵は驚くほどの金額を報酬として提案してきた。

 俺たちはそれを断り、代わりに妖精たちと仲良くしてほしいとお願いした。

 伯爵の顔が曇る。


「わ、私としては構わないのだが、あっちはどう思っているのかね……。杖を妖精たちから盗んだのは我々人間なのだからね……」


 後ろめたい気持ちはやはりあるらしい。

 妖精たちの長が『人間との友好を望んでいる』『杖を盗んだことは水に流す』と考えているのを伝えると、グラヴィル伯爵はほっと安心した。


「ほかならぬキミの望みだ。これからは妖精たちと積極的に交流しようではないか」

「やったーっ。おいしいものが食べられるーっ」


 突然、プリシラのカバンからニーナが飛び出してきた。

 妖精の里から隠れてこっそりついてきていたらしい。

 いつの間に忍び込んだのやら。


「ニーナ……」

「これからは人間の作った料理やお菓子が食べられるんだよねっ。楽しみだなー」

「大妖精に叱られるぞ」

「叱られないよ。むしろ逆だって。妖精と人間が友好的な関係になった瞬間を見届けたんだもん」


 絶対叱られるだろうな……。



 とにかく、こうして俺たちはオード領の問題を解決したのだった。

 王都に戻るとギルド長のエトガー・キルステンさんに今回のことを報告した。


「グラヴィル伯爵の宝を取り戻し、妖精と人間の関係も修復した、か。さすがだ、アッシュ・ランフォード」

「なりゆきでそうなっただけです」

「いや、他の者をいかせていたら決してこのような結果にはならなかったろう。ごくろうだった」


 キルステンさんは窓の側に立って空を見つめる。


「空から降ってきた隕石とはな。夜空に輝く星のひとつひとつに、我々のような人間が暮らしているのだろうか」

「かもしれません」

「全部ではないのじゃ。生物が暮らせるような環境の星はめったにないのじゃ」

「だとすると、わたくしたちが緑豊かな世界で暮らせているのは幸運なことなのかもれませんわね」

「だったらこの世界に暮らすみーんなと仲良くしなくちゃいけませんねっ」

「この星に生まれた幸運を忘れないでいないとな」

「キルステン。おぬし詩人になるとよいぞ」

「茶化すな」


 後日、『シア荘』にニーナたちからの手紙が届いた。

 この前のお礼と、近況の報告だった。


 人間とはあれから仲良く交流しているらしい。

 この手紙も人間に代筆してもらっているとのこと。

 おてんばなニーナのことを思い出して俺はふっと笑みをこぼした。

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