111-1
幾度も剣を打ち合う。
拮抗した戦いが延々と思えるほど続く。
俺もサルヴァークも次第に疲労していく。
ときおり不意打ち気味に魔法を放つが、それも互いに防御する。
魔法と剣を織り交ぜた攻防が繰り返される。
「てこずっておるのじゃの」
「安心してくれ。俺は必ず勝つ」
スセリが手下を相手してくれているおかげでサルヴァークとの戦いに集中できる。
だが、そんなときだった――汗で手が滑り、剣が手からすっぽ抜けたのは。
その瞬間を見逃さず、サルヴァークが一気に間合いを詰めてくる。
迫りくる死。
背中に寒気が走る。
サルヴァークの剣が俺の心臓を貫こうとする。
だが、それはかなわなかった。
「ぐわっ」
突然、上空から小さな袋が落ちてきてサルヴァークの頭に当たり、袋の中身の粉が降りかかった。
粉まみれになったサルヴァークが苦しげに目を覆ってもだえ苦しみだした。
上空を見ると、サルヴァークの前にニーナがいた。
「アタシ特性のコショウ爆弾だよっ」
俺は金属召喚で剣を呼び出す。
そして立ち上がったばかりのサルヴァークに突進し、密着すると同時に心臓に刃を突き刺した。
浄化の魔法を唱える。
光が手から剣に伝わり、サルヴァークの内側へと入っていき、浄化していく。
邪悪な存在だったサルヴァークが足元から光の粒子になっていき、やがて全身が粒子となって大気に散って消滅した。
サルヴァークが消滅すると同時に、あれだけ大勢いた手下のヘビ人間たちも煙となって消え失せた。
どうやらサルヴァークが魔法で生み出した手下だったらしい。
「アッシュさまーっ」
たっぷりと助走をつけてプリシラが胸に飛び込んでくる。
主人に甘える子犬みたいだ。
「悪者をやっつけたんですね、アッシュさま」
「プリシラもよくがんばったな」
「てへへ。頭をなでなでしていただけるとうれしいです」
俺は望みどおり彼女の頭をなでてあげた。
プリシラは気持ちよさそうに目を細めていた。
ニーナが俺の顔の位置まで下りてくる。
「アタシ大活躍だったでしょ」
「あんなものを持ってたんだな」
「獣や魔物を追い払うために妖精たちはみんな持ってるんだよ。トウガラシの粉末も混じってるから効果は抜群だよ」
そんなものを振りかけられたなんて、サルヴァークはさぞ目が痛かっただろう。
「これで大樹を汚染する邪悪な魔力を断ちましたわね」
「さっそく帰ろう!」
異世界から脱出した俺たちは妖精の里に戻り、大妖精に報告した。
そして大樹のもとへ行き、幹に手を当てて魔力を確かめた。
まだ幹に邪悪な魔力は残っているが、根から吸っている魔力に邪悪な力は感じない。




