110-6
決闘というよりも、これでは俺の処刑だ。
周囲の勢いにのまれてはいけない。
俺は心を落ち着かせて冷静さを保っていた。
俺は勝てる。
これまで幾度も強敵たちを退けてきた。
今回だってそうだ。
サルヴァークを倒し、大樹の汚れを取りく。
そして大妖精から聖杖アルカレイドを譲ってもらうのだ。
「私にはわかるよ」
サルヴァークが言う。
「キミはただ者ではないと。人間だからといって侮りはしない。全力でいかせてもらおうではないか」
「俺だって負けるわけにはいかない」
互いに剣を構える。
「さあ、どこかでもかかってくるがいい!」
決闘がはじまった。
俺は剣を構えたままじっとしている。
すさまじい気迫だ。
サルヴァークは間違いなく強い。
まばたきの一瞬ですら油断できない。
がまんできずにこちらから攻撃した瞬間、返り討ちにあうだろう。
俺もサルヴァークも、石像のように固まっている。
周囲の歓声だけが聞こえる。
ヘビ人間たちはサルヴァークを応援している。
殺せ、人間を殺せと盛り上がっている。
額から汗が滑る。
その一滴が地面に落ちたそのとき、サルヴァークがついに動き出した。
一歩、二歩、で距離を詰める。
互いの剣の間合い。
サルヴァークが振るった剣を俺は剣で防御する。
金属同士がぶつかり合う甲高い音。
肉薄する俺とサルヴァーク。
つばぜり合い。
押されまいと押し返す。
「私は勝たねばならんのだよ。安息の地を得るために」
剣の柄を握る手が痛い。
歯を食いしばり、全力で食い止める。
「私はこの身に宿る邪悪な魔力のせいで迫害を受けてきた。理不尽を被ってきた。ならば次は私が理不尽を振りまいてもよかろう」
「身勝手だな!」
飛びのいて距離を開ける。
すかさず接近を試みてくるサルヴァーク。
再び剣と剣がぶつかる。
「身勝手が許されるほど私は虐げられてきたのだよ」
「身勝手が許される言い訳なんてない!」
サルヴァークを蹴り飛ばす。
腹に蹴りを食らって吹き飛ばされるも、サルヴァークはすぐに体勢を立て直した。
サルヴァークが手に魔力を集める。
「貫け!」
その手から漆黒の矢が放たれた。
俺はすかさず防御の魔法で障壁を発生させて打ち消す。
矢と障壁は相殺された。
今度は俺が攻撃の番。
……と思っていたそのとき、背中に激痛が走った。
ゆっくりと振り返ると、観戦していたヘビ人間の兵士が、槍で俺の背中を突いていた。
「今です! サルヴァークさま!」
卑怯――なんて言えない。
もとよりここはこいつらの根城なのだ。
ヘビの顔でもよくわかった。サルヴァークがニヤリと勝利を確信した笑みを浮かべていたのは。




