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110-5

 しかし、サルヴァークはそんな脅しも通用しなかった。


「心配は無用だ。我々は強い。いかなる敵であろうと退ける」


 するとスセリはにやりと笑った。


「いーや、おぬしらが外に出たところでオード領程度は乗っ取れるじゃろうが、すぐに王国が諸侯をまとめて反撃を開始するじゃろう。そうなればおぬしらは一網打尽じゃ。おぬしらは大陸の人間すべてを敵に回すのじゃよ」


 そして彼女は俺から魔書『オーレオール』を奪い、サルヴァークに見せつけた。

 魔力を感じ取れるのだろう。サルヴァークがそれをじっと見る。


「じゃが、この万能の魔書があれば話は別じゃ」


 なにを考えているんだ、スセリは。


「おっと、奪おうとしても無駄じゃぞ。ワシが認めた者以外が触った瞬間、その者は全身が沸騰して即死する仕掛けになっておる。茹でヘビにはなりたくなかろう?」


 本当なのかはったりなのかは定かではないが、サルヴァークはそれに触れるのをやめた。


「これが欲しいじゃろ?」

「……取引かね」


 まさかスセリ、魔書『オーレオール』と引き換えに俺たちを牢屋から出すつもりか。

 ところが彼女はそんな安易なことは考えていなかった。

 スセリは俺の肩にぽんと手を置いた。


「こやつとおぬしで決闘をするのじゃ。この魔書の現在の所有者はこやつじゃ。おぬしが勝てば所有権を譲ってやろう」

「ちょっと、スセリさま!」

「マリアは黙っておれ」


 なるほど。そういうことか。

 サルヴァークは「ほう」と声を出す。


「彼が勝てば自分たちの命を保障しろ、と言いたいわけだね」

「いや、こやつが勝つのはおぬしが死ぬときじゃ。首魁であるおぬしが死ねば、ヘビ人間どもは哀れに瓦解するじゃろう」

「……」


 考え込むサルヴァーク。


「悩む必要はあるまい。おぬしらが生き延びるには、決闘に勝ってこの魔書を奪い、王国と真っ向勝負するしかないのじゃぞ」

「……いいだろう」


 スセリは本当に口が上手い。

 サルヴァークをまんまと乗せることができた。


 しかしこの策略、俺がサルヴァークに勝てるのを前提としている。

 勝利を確信してくれている、と好意的に受け止めていいのだろうか。

 むろん、俺は負けるつもりなどないのだが。



 城の中庭。

 普段は兵士の訓練場として使っているのだろう。そこはだだっ広く、矢の的や藁人形が置かれている。


 訓練場にはおそらくこの城にいるすべての兵士が集まっている。

 俺とサルヴァークは訓練場の中心に向かい合って立っている。

 共に剣を手にしている。


「サルヴァークさまー!」

「サルヴァークさまに勝利をー!」


 俺たちの戦いを観戦しにやってきた兵士たちは沸き立っている。

 プリシラとマリア、妖精のニーナは心配そうに俺たちを見ている。

 スセリは普段どおり、のんきそうだ。


「諸君! 私はこの人間に勝利し、勝どきを上げるのを約束しよう! 勝利したあかつきには外の世界へと進出し、安らかに暮らせる寄る辺を手に入れようではないか!」


 サルヴァークは剣を高らかに掲げてそう声を上げた。

 兵士たちの歓声。

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