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山盛りパスタの転移に成功した。
あとは待つだけだ。
ウルカロスは突如足元に出現したパスタを凝視している。
破壊されるかと心配したが、どうやらその気配はない。
ウルカロスの頭部が反転し、家の扉のほうを向く。
「セヴリーヌさま。突如、パスタが出現しました」
そう主に報告した。
……。
……。
……。
ガチャリ。
家の玄関の扉が開いた。
「出てきました!」
扉がわずかに開かれ、その隙間から少女が頭を出してきた。
サクラの花びらのような、淡い桃色の髪をした少女。
おそらく、この女の子がセヴリーヌだ。
本当に10歳くらいの女の子だなんて……。
セヴリーヌは眉をひそめてパスタを見つめている。
異様に警戒している。
しかし、俺たちには気づいていないようす。
危険が無いと判断したらしいセヴリーヌは、身体を完全に出して外に出てきた。
慎重な足取りでパスタへと近づく。
そしてパスタのもとまでたどり着くと、皿の脇に置いてあったフォークを手にしてパスタに突き刺した。
ぐるぐる巻きにしたパスタを口に運ぶ。
刹那、セヴリーヌの目がかっと見開かれる。
「ウルカロス! このパスタ、めっちゃおいしいぞ!」
「よかったですね、セヴリーヌさま」
「突然パスタが現れるなんて、今日はついてるなっ」
セヴリーヌは地べたに座り、パスタにがっついた。
必死にフォークを動かして、夢中でパスタを食らっている。
秘策『ごちそうで釣り出す作戦』成功だ。
しかし、本当に食べ物に釣られてでてくるとは……。
「よし、今だ! セヴリーヌに――」
と、そのときだった。
パスタが突如、弾け飛んだのは。
口の周りをトマトソースで汚したセヴリーヌが驚いて飛びのく。
彼女の足元には矢が突き刺さっていた。
どこからともなく飛んできたこの矢がパスタに直撃したのだ。
セヴリーヌは服の袖で口元のパスタソースを拭う。
「どこだ! 出てこい!」
そう叫んで周囲を見渡す。
ドスッ。ドスッ。
さらに二本の矢が飛んできてセヴリーヌの足元に刺さる。
事情はわからないが、セヴリーヌは何者かに狙われている。
「プリシラ、矢の飛んできた方向はわかるか!?」
「あっちです!」
プリシラが指さしたほうに目をやる。
街路樹の陰に何者かが隠れている。
手には短弓を持っている。
あの目深にフードをかぶったローブの姿……。
昨日、ディアの命を狙ってきた、クロノスが差し向けた暗殺者!
暗殺者は矢をつがえて弓を引き絞る。
まずい!
セヴリーヌは無防備につっ立ったまま周囲を見回している。
俺はセヴリーヌの前に躍り出た。
突然の俺の出現に目をむくセヴリーヌ。
「障壁よ!」
俺は魔法を唱える。
魔法の障壁が俺の目の前に出現し、飛んできた矢を防御した。
セヴリーヌはぽかんと口を開けて俺を見上げている。
「な、なんだお前!?」
「そんなのは後だ!」
三人の暗殺者が物陰から現れ、俺とセヴリーヌを包囲した。
こいつら、今回はディアじゃなくてセヴリーヌの命を狙っているのか……?
暗殺者の一人がセヴリーヌに短刀の切っ先を向ける。
「セヴリーヌ。おとなしくセオソフィーを返してもらおう。さもなくば力ずくでありかを吐かせる。痛い思いをする前に返すのが賢明だぞ」
「やだよーだっ」
べーっ、とセヴリーヌは舌を出した。
人物紹介
【セヴリーヌ】
スセリの悪友。不老の肉体を持つ。
精神は外見同様の幼く、わがまま。




