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11-6

 山盛りパスタの転移に成功した。

 あとは待つだけだ。


 ウルカロスは突如足元に出現したパスタを凝視している。

 破壊されるかと心配したが、どうやらその気配はない。

 ウルカロスの頭部が反転し、家の扉のほうを向く。


「セヴリーヌさま。突如、パスタが出現しました」


 そう主に報告した。

 ……。

 ……。

 ……。

 ガチャリ。

 家の玄関の扉が開いた。


「出てきました!」


 扉がわずかに開かれ、その隙間から少女が頭を出してきた。

 サクラの花びらのような、淡い桃色の髪をした少女。

 おそらく、この女の子がセヴリーヌだ。

 本当に10歳くらいの女の子だなんて……。


 セヴリーヌは眉をひそめてパスタを見つめている。

 異様に警戒している。

 しかし、俺たちには気づいていないようす。


 危険が無いと判断したらしいセヴリーヌは、身体を完全に出して外に出てきた。

 慎重な足取りでパスタへと近づく。

 そしてパスタのもとまでたどり着くと、皿の脇に置いてあったフォークを手にしてパスタに突き刺した。

 ぐるぐる巻きにしたパスタを口に運ぶ。

 刹那、セヴリーヌの目がかっと見開かれる。


「ウルカロス! このパスタ、めっちゃおいしいぞ!」

「よかったですね、セヴリーヌさま」

「突然パスタが現れるなんて、今日はついてるなっ」


 セヴリーヌは地べたに座り、パスタにがっついた。

 必死にフォークを動かして、夢中でパスタを食らっている。


 秘策『ごちそうで釣り出す作戦』成功だ。

 しかし、本当に食べ物に釣られてでてくるとは……。


「よし、今だ! セヴリーヌに――」


 と、そのときだった。

 パスタが突如、弾け飛んだのは。

 口の周りをトマトソースで汚したセヴリーヌが驚いて飛びのく。


 彼女の足元には矢が突き刺さっていた。

 どこからともなく飛んできたこの矢がパスタに直撃したのだ。

 セヴリーヌは服の袖で口元のパスタソースを拭う。


「どこだ! 出てこい!」


 そう叫んで周囲を見渡す。

 ドスッ。ドスッ。

 さらに二本の矢が飛んできてセヴリーヌの足元に刺さる。

 事情はわからないが、セヴリーヌは何者かに狙われている。


「プリシラ、矢の飛んできた方向はわかるか!?」

「あっちです!」


 プリシラが指さしたほうに目をやる。

 街路樹の陰に何者かが隠れている。

 手には短弓を持っている。

 あの目深にフードをかぶったローブの姿……。

 昨日、ディアの命を狙ってきた、クロノスが差し向けた暗殺者!


 暗殺者は矢をつがえて弓を引き絞る。

 まずい!

 セヴリーヌは無防備につっ立ったまま周囲を見回している。

 俺はセヴリーヌの前に躍り出た。

 突然の俺の出現に目をむくセヴリーヌ。


「障壁よ!」


 俺は魔法を唱える。

 魔法の障壁が俺の目の前に出現し、飛んできた矢を防御した。

 セヴリーヌはぽかんと口を開けて俺を見上げている。


「な、なんだお前!?」

「そんなのは後だ!」


 三人の暗殺者が物陰から現れ、俺とセヴリーヌを包囲した。

 こいつら、今回はディアじゃなくてセヴリーヌの命を狙っているのか……?

 暗殺者の一人がセヴリーヌに短刀の切っ先を向ける。


「セヴリーヌ。おとなしくセオソフィーを返してもらおう。さもなくば力ずくでありかを吐かせる。痛い思いをする前に返すのが賢明だぞ」

「やだよーだっ」


 べーっ、とセヴリーヌは舌を出した。



人物紹介

挿絵(By みてみん)

【セヴリーヌ】

スセリの悪友。不老の肉体を持つ。

精神は外見同様の幼く、わがまま。

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