110-1
妖精の里を出た俺たちは隕石の落ちた場所へ行くため、ニーナの後に続いた。
「なるほどなるほど。アッシュくんたちは困りごとを解決する冒険者なんだね」
「『くん』……」
俺が不満げな声を出すと、ニーナが眉間にしわを寄せる。
「なーに? 『くん』呼びじゃ不満なわけ?」
「い、いや、年下の子にそう呼ばれるのはちょっと……」
「アッシュくんはいくつなの? アタシは340歳だけど」
「ええっ!?」
聞き間違えだろうか。
ニーナは今、340歳と言ったような……。
「知らんかったのか? 妖精は極めて長寿なのじゃよ」
「外見はプリシラと同じくらいに見えますのに……」
人間がせいぜい100歳までしか生きられないことを教えると、今度はニーナが驚いた。
「たった100歳までしか生きられないの? 人生楽しめないじゃんっ」
「健康な身体でいられるのは70あたりまでじゃから、実際はもっと短いのじゃ」
「アタシ、人間に生まれなくてよかったー」
異種族の価値観の違いというものか。
人間と妖精が交わらずに暮らしているのはある意味よかったのかもしれない。
価値観の違いは軋轢を生む。人間同士ですらそうだ。
「妖精を茹でてだしを取れば寿命が延びる薬を作れそうじゃの」
「ひええええっ!」
ニーナが俺の背後に隠れた。
「スセリさま。いじわるはやめてくださいまし」
「いやー、すまんすまん」
「ところでニーナさま。妖精はふだん、どのようなのものを食べているのですか?」
「えっ、普通に木の実や果物を食べたり、花の蜜を吸ってるよ。人間は違うの?」
「俺たちの主食はパンだな。あとは肉を食べたりしている」
「に、肉……」
ニーナの顔が再び青ざめる。
「やっぱり人間ってこわい……」
もしかすると、ひどい誤解をされてしまったかもしれない。
プリシラがぽんと手を合わせる。
「ニーナさま。よろしければ今度、わたしたちの家に遊びにきませんか?」
「うーん」
困った表情をするニーナ。
「お誘いはうれしいんだけど、アタシたちは森から出るのを禁じられてるから」
「あ、そうなんですか……」
「こっそり抜け出してはいかが?」
「むりむり! バレたらすっごい怒られるもん! 大妖精さま、怒るとすっごい怖いんだよ!」
意外だ。
あのしとやかで落ち着いた物腰に見える大妖精が、ニーナが恐れるほど激怒するなんて。
「里の妖精たちは誰も大妖精さまに逆らえないんだから」
「残念です……」
「でも、ちょっと興味あるかも。こんな大きな体で不便そうな人間がどんなふうに暮らしているのか」




