109-5
冒険者ギルドでよく討伐対象になる魔物だ。
とはいえ、油断はいけない。
俺たちは武器を構え、オオカミ型の魔物をけん制する。
凶暴なうなり声をあげている魔物。
草むらからさらに二匹、同じ魔物が現れる。
オード領は聖杖アルカレイドの力で魔物を寄せ付けていないはずなのに、なぜ……。
すでにアルカレイドの力は失われてしまったのか。
仲間の到着を待っていたらしい。オオカミ型の魔物は数がそろうと一斉に襲いかかってきた。
俺たちはそれを迎撃する。
俺にまっさきに飛び掛かってきた一匹を、俺は金属召喚した槍で叩き落とす。
地面に倒れたところを狙い、脳天を矛先で突いた。
その一撃で魔物は絶命した。
残った二匹もプリシラとマリアとスセリがすでに片づけていた。
油断は禁物と言いながらも、この種類の魔物とはさんざん戦ってきたから、慣れたものだった。
「妖精。ケガはないか?」
「うん。アタシは平気。助けてくれてありがとう、人間」
にっこりと笑顔を浮かべる妖精の少女。
「ちょうどいいところで出会いましたわね、妖精。わたくしたち、あなたがたの長に会いにきましたの」
「大妖精さまに?」
「その方が長ですの? でしたらたぶん、そうですわ」
妖精は「うーん」と考え込む。
助けてくれた恩人とはいえ、良好とは言い難い関係である人間を森に入れるのには悩んでいるようだ。
「もしかして、杖を取り返しにきたの?」
「……まあ、そんなところだ」
「やっぱり」
「聖杖アルカレイドがもともと妖精たちのものだったのは知っている。それでも、俺たち人間にはどうしてもあれが必要なんだ。大妖精と話をさせてくれ」
「……わかった。大妖精さまに会わせてあげる。でも、会わせてあげるだけだよ。あなたたちは助けてくれた恩人だけど、味方にはなれないから」
「それだけでじゅうぶんだ。ありがとう、妖精」
「アタシの名前はニーナ。『妖精』って種族で呼ばれるとなんか変な感じがするからおぼえておいてね」
こうして俺たちは妖精ニーナに案内され、妖精の里へと到着した。
妖精の里は無数の光る花に照らされた、幻想的な光景だった。
ニーナと出会えたのは幸運だった。
彼女によると、人間たちを森の深くに入らせないよう、目印になる青い花に偽物を紛れ込ませていたらしい。
危うく延々と迷子になるところだった。
大妖精は里の奥にある切り株に召使いを伴って座していた。
「聖杖アルカレイドは我々の大切な宝です」
大妖精はまず最初にそう言った。
所有権を主張するのは当然。
杖を人間の手に返してオード領の平穏を守るにはその正当性に立ち向かわなくてはならない。




