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かといって、聖杖アルカレイドが失われては領民たちが危険にさらされる。
杖を盗んだのは大昔の話であり、現代の領民たちにはなんの罪もない。
どうすべきか……。
「話し合いで妖精たちを説得すべきですわ」
「妖精たちからしたら盗まれた宝を取り戻したのじゃ。話し合いも説得もあるまい」
「盗んだ人が『返してください』って言ってくるようなものですからね……」
「ここで考えてもいい案は出てこない。まずは妖精の森に行かないか?」
それを聞いてスセリがため息をつく。
「アッシュよ。おぬし、こやつらの祖先が犯した過ちの尻ぬぐいをするつもりか?」
そんなつもりはないが「部外者です」と知らんぷりして帰るわけにもいかない。
「そういうわけですのでグラヴィル伯爵。俺たちは妖精の森へ行きます」
「う、うむ……。まかせよう。報酬ははずむからよろしくたのむ」
その夜。
俺とプリシラとマリア、スセリの四人で妖精の森に入った。
「きれいですーっ」
プリシラがはしゃぐ。
妖精の森には花がそこら中に咲いていて、しかもその花は発光して森を美しく照らしていた。
絵本みたいな美しい光景だ。
「青色の光が道しるべしたわよね」
「伯爵はそう言ってたな」
妖精の森には結界が張ってあり、昼間に足を踏み入れても妖精たちの住処まではいけないらしい。道に迷ったあげく、入り口に戻ってきてしまうのだとか。
だが、夜に限っては結界が解け、青い光の花をたどれば森の奥まで入れるという。
ピピッと機械が鳴らす音がする。
横を見るとスセリが端末を構えていた。
写真を撮ったらしい。
「スセリさま。後日端末を貸してください。森の写真をベオに見せてあげたいんです」
「よいぞ」
「ベオウルフとプリシラは仲良しですわね」
「ですがマリアさま。油断してはいけませんよ。ベオもアッシュさまのお嫁さんになるのを狙っていますので」
「好敵手というわけですわね。望むところですわ」
「よりどりみどりじゃな。アッシュよ」
もしかすると、俺の知らないところで彼女たちは熾烈な戦いを繰り広げているのかもしれない……。
……そのとき、木の陰から小さな浮遊する物体が飛び出してきた。
蝶のような羽を生やした小人の少女――妖精だ。
「えっ!? なんで人間がここに!?」
「お、俺たちは――」
「ちょうどよかったわ! 助けて!」
妖精が俺たちの背後に逃げ込む。
彼女がなにから逃げているのかはすぐにわかった。
草むらが揺れて、オオカミが飛び出してきた。
「魔物ですっ」
オオカミ型の魔物だ。
夜の闇で塗りつぶされたような漆黒の体毛。
赤く光る眼には理性は宿っていない。




