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11-5

 次の日、俺とプリシラとディアは再びセヴリーヌの家へと赴いた。

 家の前は相変わらず巨大ゴーレムのウルカロスが守護している。

 ウルカロスは赤く光る単眼で俺たちをじっと見つめている。

 抹殺対象の俺たちがうかつに近寄れば、ウルカロスはその巨体で俺たちをひねりつぶしにくるだろう。実際、そのせいで昨日はひどい目にあった。


 だが、今回はそうはいかない。

 俺たちはセヴリーヌに会うための秘策を用意してきたのだ。


「アッシュさんの秘策、成功するでしょうか」

「成功しますよっ。だって、アッシュさまがお考えになった策ですからっ」


 心配そうなディア。

 プリシラはいつものごとく俺を信用してくれている。


 懐中時計に目をやる。

 今頃、『夏のクジラ亭』ではヴィットリオさんが厨房で料理を作っているはず。

 約束の時間まで間もなくだ。


 今回の秘策はおそらく成功するだろうと思っているが、不安な要素はないわけではない。

 スセリの助けなしで魔法が成功するだろうか。

 スセリはまだ魔力が回復しないのか、昨日、治癒魔法で俺の傷を治して実体化を解いてから一言もしゃべっていない。


 今回の秘策では俺が魔法を唱えることになっている。

 扱いが困難な転移魔法だ。

 必要な魔力は魔書『オーレオール』から供給されるから大丈夫として、肝心の呪文の詠唱はスセリの助けなしで唱えなくてはならない。

 昨夜、『オーレオール』の転移魔法の項目を熟読し、実験もしてみた。

 扉を隔ててコップを転移させることには成功した。


 とはいえ、今回の秘策では、『ある物』を『夏のクジラ亭』からここまで転移を成功させる必要がある。

 長距離の転移だ。

 距離が遠くなれば遠くなるほど転移魔法は難しくなるとスセリは言っていた。

 俺にできるだろうか。


 時計の長針が頂点に達した。

 ヴィットリオさんとの約束の時刻。

 この時間ぴったりに料理を作ってほしいと、あの人に頼んでおいたのだ。

 そしてその料理を俺がここに転移させる。


 セヴリーヌの家に向けて手をかざす。

 目を閉じ、精神を集中させる。

 『オーレオール』から膨大な魔力が流れ込んでくるのを感じる。

 冷たい水流が全身をめぐるような感覚。


 心の中で呪文を詠唱する。

 かざした手に魔力が集中していく。

 うずまく魔力。

 身体をめぐっていた魔力がすべて集まったのを感じる。

 目を開く。

 そして言葉を発した。


「来たれ!」


 その瞬間、ウルカロスの前に魔法円が出現した。

 更にその魔法円から、一つの物体が出現した。

 皿に載ったパスタだ。

 トマトソースの山盛りパスタが『夏のクジラ亭』から転移されてきたのだ。


「ヴィットリオさんのパスタが――」

「転移されてきましたっ」


 転移魔法成功だ。

 いや、この場合は召喚魔法になるのか……?

 いずれにせよ、成功したのには違いない。


「さすがアッシュさまですっ」

「超高等魔法である転移魔法を成功させるなんて……」

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