108-7
それから数日後、俺は王城に招待された。
ラピス王女から。
俺一人だけ。
そういうわけで俺は今、花が咲き乱れる城の庭園でラピス王女といっしょにいるのだった。
美しい花園。
ラピス王女もそれに負けないほど美しい。
花を眺めるラピス王女の表情はごきげん。
ときおり俺のほうに目をやり、にこりと微笑んでくる。
俺もぎこちない笑みを返していた。
「ラピス王女。俺になにか用事でも?」
「あら、用事がなければ招いてはいけないのですか?」
すました顔でいじわるな返事をされてしまう。
「用事はありません。ただ、あなたとお話がしたかっただけ」
「俺と話してもつまらないですよ」
「いえ、とても興味深かったです」
花を眺めながら俺とラピス王女はおしゃべりをしていた。
ラピス王女は俺の冒険者生活を話してほしいとせがんできた。
なので俺はありのままの冒険者生活を話したのだ。
「アッシュ・ランフォード。あなたはこれまでさまざまな困難を乗り越えてきたのですね」
「仲間がいたからです」
「信頼できる仲間ですね」
俺には仲間がいる。
かけがえのない仲間が。
彼女たちのおかげで俺はあらゆる困難を乗り越えられた。
「わたくしもあなたの友達ですよね?」
「えっ」
俺は一瞬、ためらってしまう。
王女さまが『友達』だなんて恐れ多い。
「いいんですか?」
「尋ねているのはわたくしですよ」
またいじわるな返事をされてしまった。
「王女さえよければ」
「よかった」
年相応の笑顔を彼女は見せてくれた。
「結婚の話も無理強いはしませんが、前向きに検討してくださいね」
「俺と結婚してもつまらないですよ」
「それは結婚してから確かめます」
前回はなんだかんだでごまかせたと思ったが、しっかりおぼえていたんだな……。
まさか王家の人間に好意を寄せられるとは……。
王家の権力を使えばむりやりにでも結婚はできるだろう。
ラピス王女がそれを行使しないまともさの持ち主だったのはさいわいだった。
彼女は美しく、少々夢見がちなかわいらしい乙女だが、結婚したいとなると話は別。
「アッシュさん。今度の冒険はわたくしも同行させてください」
「……国王陛下の許可はいただいているのですか?」
「もう、そんなわけないでしょう」
ほっぺたをふくらませて憤慨するラピス王女。
それからウィンクする。
「こっそりですよ。こっそり」
「ダメです」
彼女はあくまで物語に出てくるような大冒険を求めているのだった。
「アッシュ・ランフォード。もっとあなたのそばにいたいのです」
「それは身に余る光栄なのですが……」
「あなたは特別に『ラピス』と呼び捨てにしてもいいですよ」
「ダメです」
彼女の好奇心は、いずれ波乱をもたらす気がしてならない。




