108-5
魔書『オーレオール』の紙片から魔力を受け取った水晶は、すぐに魔力が飽和して吸収を止めた。
一件落着。
残された問題といえば帰り道くらいのものだ。
「帰り道もプリシラが地図を描いた場所まで探索しなくてはなりませんの?」
さすがのマリアもうんざりしている。
俺も依頼を遂行して気が抜けたのか、ゆううつな気持ちになっていた。
プリシラも苦笑いしている。
「安心するのじゃ。直通の帰路を教えてやるのじゃ」
部屋を出た俺たちは昇降機の前までやってきた。
スセリに言われたとおり、昇降機の装置にケーブルを挿入し、端末と接続する。
スセリがなにやら外部から昇降機をいじっているようだ。
「うむ。これでできたのじゃ」
「なにができたのですか? スセリさま」
「言ったじゃろ。直通の帰路じゃろ。昇降機の到着階を最上階――つまり地上に指定したのじゃ」
「地上に戻れますの!?」
昇降機の扉は開く。
俺たちは救いを求めるかのように中に飛び乗った。
扉の閉まった昇降機が上昇をはじめる。
長い長い上昇。
かなり長い。
「今回も大冒険でしたね、アッシュさま」
プリシラが言う。
「まさか、王女さまの幽霊と出会うなんてな」
「私も誰かが助けにきてくれるだなんて思いもしませんでした。あのまま一生――あ、もう一生は終えてるんでしたね」
「それの冗談は持ちネタですの?」
いろいろあったが、これで王都の魔法道具が再び正常に動くだろう。
人々の便利な暮らしは守られたのだ。俺たちによって。
そう考えるとなんだか誇らしくなる。
昇降機が停止する。
扉が左右に割れて開いた瞬間、まぶしい日差しが降り注いだ。
思わず目をつぶる。
少しずつ目を細めて開き、光に目を慣らす。
光に完全に慣れて顔を上げると、目の前に街道の光景があった。
ここは王都の郊外……。
昇降機から出る。
昇降機は灰色の建物として、街道の外にぽつんと建っていた。
ここから『ウルテラの迷宮』につながっていただなんて。
「外に出られましたーっ」
プリシラがうんと背伸びをして両手を広げ、めいっぱい太陽の光を浴びる。
太陽ってこんなに温かかったんだな、と俺も実感していた。
「うううー、何百年ぶりかの太陽です……」
感激のあまりアステリア王女は涙ぐんでいた。
そんな王女をマリアがしげしげと見ている。
「アステリア王女。あなた、平気ですの?」
「え? なにがです?」
「幽霊って、太陽の光に弱いのではなくて?」
「……ああっ」
今さら気付いたらしい。
アステリア王女がふわりと浮遊する。
心なし、姿の透け具合も増しているような……。




