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「おなかペコペコですー」
おなかをさするプリシラは、期待に満ちた面持ちで厨房のほうを見ている。
ヴィットリオさんの料理が一流シェフ顔負けなのはすでに知っている。
否応にも期待が高まるというもの。
「できたぞ。冷めないうちに食べろ」
ヴィットリオさんの今晩の料理はパエリアだった。
底の浅い鉄鍋に入ったそれはテーブルの真ん中に置かれる。
鮮やかな黄色い米と、ふんだんに盛り込まれた魚介類や鶏肉、色とりどりの野菜が、食べる前から目で楽しませてくれる。
トマトの香りが食欲をそそる。
プリシラとディアは目を輝かせながら鉄鍋のパエリアを覗き込んでいる。
「とっとと食べろ」
俺たちはスプーンを手にしてパエリアを胃袋にかき込んだ。
本当はもっと味わって食べるべきなのだが、スプーンを持つ手が止まらない。
まるで魔法にかけられているかのよう。
「おいしいですーっ」
「ガルディア家の屋敷に住んでいた頃でも、これほどすばらしい料理は食べたことがありませんでした」
プリシラもディアも競い合うようにパエリアを食べていた。
みんな、ヴィットリオさんの料理に夢中だ。
この料理を宣伝するだけでも『夏のクジラ亭』は繁盛するだろうに。
「そういえば、あの銀髪の小娘がいないな」
ヴィットリオさんのごちそうを目の前にしてもスセリは魔書『オーレオール』から出てこない。
治癒魔法は膨大な魔力を消費すると言っていたが、これほど長い間、しゃべることすらできないなんて、少し心配になる。
「ヴィットリオさん。銀髪の……スセリのためにパエリアを作り置いてくれませんか」
「わかった」
ヴィットリオさんは厨房に戻っていった。
「お優しいですね。アッシュさんは」
「助けてくれたあいつを差し置いて、俺たちだけでこの料理を楽しむのはさすがにかわいそうだからな」
パエリアを三人で平らげたころになって、クラリッサさんが食堂に入ってきた。
「あなたたち、セヴリーヌちゃんに会いにいったのよね。どうだったの?」
「それが……」
俺たちは巨大なゴーレムに門前払いされたことをクラリッサさんに話して聞かせた。
「そう……。残念だったわね。まあ、ゴーレムに踏みつぶされなかっただけマシだと思えばいいのかしら」
「どうにかしてセヴリーヌに会いたいんですが」
「大声で呼んでもダメでしたし……」
セヴリーヌに会う方法を考えないと。
彼女の友人であるスセリは、いつになったら回復するのかわからない。
俺たち三人でこの問題を解決しなければならない。
「できたぞ」
と、そこにヴィットリオさんがやってきた。
四角い箱を無造作にテーブルに置く。
箱からは先ほど平らげたパエリアの香りが漂ってくる。
「弁当箱にパエリアを詰めておいた。銀髪の小娘が帰ってきたら渡せ」
「ありがとうございます。ヴィットリオさん」
――と、その瞬間、俺は突如この問題の解決方法をひらめいた。
「これだ!」




