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「あの、よかったこれ食べますか?」
プリシラがクッキーを差し出す。
さっき休憩したときに食べたものの余りだ。
「いただきますっ」
アステリア王女はクッキーに飛びついて、とても王女とは思えない勢いと作法で食らった。
幽霊も食事はできるんだな。
なんて感想が浮かんでしまう。
「まだありますが……」
「もらいまふっ」
次々とクッキーを口に詰め込む。
アステリア王女のほっぺたはエサを食べるリスみたいに膨らんでいた。
マリアとプリシラが目配せし合って苦笑いしていた。
「やっぱり、人生にはおいしい食事が不可欠ですねっ。私はすで人生終わってますが」
反応に困る冗談だ。
「このクッキーはどこのお店のものですか? それともお城の専属パティシエが焼いたのですか? 生まれ変わったらぜひとも買いに行きたいです」
やはり冗談か判断に困る。
「これはわたしと友達で焼いたのです」
「あなたが焼いたのですか! すばらしいです! 私が生きていたら、お城の専属パティシエに推薦していたのですが、うっかり死んでしまい申し訳ありません」
「あはは……」
端末に国王陛下が映る。
「私もいいと思うぞ。この事件を解決したあかつきには、お前たちを城で働かせよう。どうだ?」
「えええっ!?」
「この事件はそれほど重大で困難な事件だ。私は王としてそれに報いねばならん」
「み、身に余る光栄ですっ」
それからプリシラは迷っているような表情をして、そしてこう言った。
「で、ですが、謹んで辞退させていただきます?」
「ほう」
意外そうな国王陛下。
それもそうだろう。王城仕えを断る人間なんてどこにいるだろうか。
「わたしはアッシュさまのメイドに誇りを持っていますので」
「なるほど。よいメイドを持ったな。アッシュ・ランフォード」
本当に、こんなけなげな少女に尽くされて俺はしあわせだ。
「アッシュ・ランフォード。マリア・ルミエール。お前たちは城の騎士にならないか?」
「俺も冒険者のほうが性に合っていますので」
「わたくしはいずれ、ルミエール家に戻らねばなりませんので。アッシュを連れて」
最後の一言が気になるが、今は無視する。
画面にスセリが映る。
「王よ。アッシュはワシのものじゃぞ。横取りするでない」
お前のものになったおぼえはないんだがな……。
「好かれているのだな。アッシュ・ランフォードよ」
「んぐぐぐぐぐぐ!」
アステリア王女が苦悶の表情を浮かべて喉をひっかきだした。
プリシラが慌ててポットの紅茶を差し出すと、彼女は一気にそれを飲み干して、のどに詰まっていたクッキーを腹の中に流し込んだ。
大きく深呼吸。ほっとした表情になる。
「生きた心地がしませんでした……。死んでますけど」
さっきから繰り返しているそれは場をなごませるために言っているのだろうか……。




