107-2
「どういうことだ。なぜ『ウルテラの迷宮』に人がいるのだ」
スセリの背後に国王陛下が映る。
俺もまったくわからない。
歴代の王しか存在を知らず、入ることが許されない迷宮に人がいるなんて……。
助けを求める人物は何者なのか。
どうやって入ってきたのか。
いつからここにいるのか。
「まずはその人を助けましょう!」
「迷宮の罠という可能性はありませんこと?」
マリアの言うとおり、侵入者を騙す罠のほうが納得がいく。
しかし、本当に人間だとしたら助けを求めているのを無視するわけにはいかないし、実際に会ってここにいる理由を問いたださなくてはならない。
「アッシュ・ランフォード。声の主が何者なのか調べるのだ」
「承知しました、陛下」
俺はロープを取り出して落としの中に垂らす。
「このロープにつかまってくれー!」
落とし穴の中に向かって叫ぶ。
……。
いくら待っても手ごたえがない。
「届きませーん!」
と悲しい叫び声が聞こえてきた。
困ったな。これ以上長いものは持ってきていない。
となると、残された手段は一つ。
「俺が降りて確かめてくる」
「危険ではなくて?」
「下に生きた人間がいるのなら、とりあえず死にはしないだろう。落とし穴の下で助けを求める女の子を見つけたら、跳躍魔法で跳んでロープをつかめばいい」
そのときだった。
通路全体がゴゴゴゴとうなりながら揺れだしたのは。
次の瞬間、通路の前後に壁が出現し、俺たちの行く手と退路を阻んだ。
閉じ込められた!?
もっと恐ろしい危機が続けざまに訪れた。
今度は左右の壁が俺たちを圧し潰そうとどんどん狭まってきたのだ。
「このままじゃペシャンコです!」
「どどどどうしますの!? アッシュ!」
逃げ場はない。
……一か所を除いて。
「落とし穴に飛び込むぞ」
「ひゃっ」
俺はマリアを抱き寄せる。
迷っている時間はない。
こうしている間にも左右の壁が迫ってきている。
「プリシラ、いいな!?」
「は、はいっ」
俺はマリアを抱きかかえた状態で落とし穴に飛び込んだ。
暗闇の中、落下する。
俺の腕の中でマリアが悲鳴をあげている。
長い縦穴を俺たちは延々と落下していた。
右腕でマリアを抱いているので、空いていた左手で短剣を金属召喚する。
召喚した短剣を壁に突き立て、ブレーキをかけながら速度を落としてゆっくりと落下していく。
やがて落下が終わり、俺たちは落とし穴のそこに着地した。
時間差でプリシラも着地する。
さすが身体能力に優れる半獣。見事に着地してみせた。
抱いていたマリアを下ろすと、俺は再び光球の魔法を唱えて周囲を照らす。
なにもない、だだっ広い空間。
少なくとも光球の明かりで照らしている範囲にはなにもない。




