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107-1

「炎の魔法を使わなくてもかまどに火をつけられるし、機械が自動で食べ物を生産してくれる。きわめて便利な社会なのじゃ」


 それからスセリが俺に問いかける。


「さて、アッシュよ。古代文明がなにより現代より優れているのはどこじゃ?」

「……」


 考える。

 答えが思いついたのでそれを口に出した。


「魔法と違って、機械の道具は個人の資質に依存しない、かな?」

「……」


 スセリが驚いた表情をしている。

 まんまるに開いた目をしきりにまばたきさせている。

 見当違いなことを口走ったのかと思いきや、真逆だった。


「大正解なのじゃ」

「さすがはアッシュさま!」


 科学技術は魔法とは異なり、どんな人間であろうと平等に恩恵を受けられる。

 ゆえに古代文明は、社会の発展の格差が極めて少なかったという。

 現代のように王都と僻地の生活に100年近くの格差があるなんてことはなかったのだとスセリは説明した。


「それでも魔法がない生活なんて考えられませんね。わたしは魔法が使えませんが、魔法は生活の一部になってますからね」

「案外、ないならないでなんとかなるのじゃろう」


 そう『稀代の魔術師』はのんきに言うのだった。


 薄暗い通路を歩いていると、ふと足元に違和感をおぼえた。

 床がわずかにだが身体の重みで沈んだ。


「みんな、下がれ!」


 俺が叫んだので、みんな慌てて後ずさりする。


「どうしましたの?」

「……足元に仕掛けがある」


 通路の隅にコンクリートのかたまりが落ちていたので、それを拾って違和感をおぼえた場所に放り投げる。

 すると、床がパカッと開き、コンクリートのかたまりが落下してしまった。

 落とし穴だ。


 おそるおそる落とし穴を覗く。

 落とし穴の深さは暗くてわからない。

 おそろしい深淵の闇が広がっていた。


「落ちたらおしまいでしたわね……」


 罠にかかって落っこちたらどうなっていたか……。

 下の階層にいきなり落ちた地図は役に立たなくなって遭難する。

 想像しただけでぞっとする。


「この道は通れませんね」


 プリシラが地図にペンを走らせる。

 別の道をさがそうと回れ右した……、そのとき。


「……なにか聞こえないか?」


 耳を澄ます。

 ……。


「聞こえますっ」


 プリシラが獣耳をぴくぴく動かしていた。

 わずかにだが聞こえるのだ。人間の声が。

 しかも、落とし穴の下から。


 落とし穴をもう一度覗き込む。


「……『助けて』って言ってます!」

「なんじゃと!?」


 端末越しにスセリの驚いた声が聞こえる。


「『ウルテラの迷宮』に人がおるのか!?」

「はいっ。間違いなく女の子の声がしますっ」


 女の子の声は俺たちに向かって助けを求めている。

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