106-7
さっき戦った魔物も人間によって作られ、人間によって倒されたわけになる。
それを思うと倒された彼らがかわいそうになってきた。
「くよくよしていても仕方ありませんわ。プリシラ、地図を見せてくださいまし」
プリシラが床に地図を広げる。
さすがプリシラだ。一目でよくわかるきれいな地図が描かれている。
「わたしたちのいる場所はここですね」
広間にあたる場所を指さすプリシラ。
そこまで来た道順を目で辿る。
……よし、引き返す分には問題なさそうだ。
「プリシラがいなかったら、たとえ目的を達成しても帰ってこれなかったろうな。ありがとう、プリシラ」
「てへへ……。アッシュさまにほめられちゃいました」
くすぐったそうに身をよじるプリシラだった。
こんなによろこんでくれるのなら、これからはもっとほめてあげないとな。
「その『ウルテラの迷宮』の地図、描きあがったら王国に提出をしろ」
端末の画面に国王陛下が映る。
「迷宮の道のりが記された貴重な地図だ。高値で買い取ろう」
「わかりましたっ。このプリシラ、いっしょうけんめい描いてみせますっ」
休憩が終わり、探索を再開する。
広間の先は再び迷路になっていた。
入り組んでいるうえに同じような光景が延々と続く。
プリシラの地図を何度も確認しながら、自分たちの現在地を見失わないように気をつけつつ先へと進む。
照明が灯っていない暗い通路にさしかかった。
「暗いですわね」
「……光よ」
俺は照明の魔法で小さな光球を出す。
光珠は俺に追従して浮遊し、周囲を照らしてくれた。
「古代文明は科学で栄えていたのですわね」
「そうだな。一般の人間は魔法はおとぎ話の存在だと思っていたらしい」
魔法という概念自体は旧人類も認知していたらしい。
現実には存在しないと思っていて、創作によく出てくるものだった。
魔法道具も電気エネルギーによって動くものだと思っていたようだ。
「科学技術と魔法、どっちが便利なのかしら」
以前、『冬の魔女』ターナを追ったとき、過去の世界に転移して古代文明を垣間見た。
科学で栄えた世界を体験したが、鉄の車が無数に走り、灰色の塔がいくつもそびえ立つ、想像を超える文明だった。
あきらかに俺たちの暮らす世界よりも高度な文明だった。
「豊かな暮らしならたぶん、古代文明のほうだろうな」
「ほほう。アッシュはよくわかっておるの」
「でも、あの世界、ちょっと怖かったですわ」
「あ、わたしも思いました。鉄の車がびゅんびゅん道を走っていて……」
「あれは自動車といっての、一家に一台あってどこへでも好きなだけ移動できるのじゃよ」
「一家に一台!? どうりでたくさん走っているわけですわね」




