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106-4

 城の真下にある『ウルテラの迷宮』は、大陸各地に点在する古代文明の遺跡同様、コンクリートと呼ばれる灰色の石のような素材で作られていた。

 驚いたのは、遺跡の内部は明かりに照らされていて明るかったこと。

 途方もない年月が経っても電気が切れていなかったのだ。


 遺跡のどこかで魔法道具によって電気を供給しているのかもしれない。

 王都全体から吸い取った魔力を利用している可能性もある。


 カツッ、カツッ、カツッ……、と固い床を踏む足音が三人分響く。

 迷宮というだけあり、内部は入り組んでいて幾度も分かれ道があった。


「調子はどうじゃ? 迷子になっておらんか?」


 端末からスセリの声がする。


「プリシラがしっかり地図を描いてくれている。引き返す分には問題ない」


 プリシラを連れてきてよかった。

 彼女は地図を描くのに慣れている。

 横を見ると、マリアが浮かない表情をしている。


「体調が悪いのか? マリア」

「いえ、やっぱりわたくしが残りべきだったと思ってましたの」

「そんなことない。スセリは薄情だけど、マリアは勇敢で俺たちを守ってくれる。俺は期待しているからな」

「アッシュ……」


 ぽっと頬を染めるマリア。


「誰が薄情じゃ」


 端末から文句が聞こえた。


「それにしても驚きですわね。お城の地下に遺跡があるだなんて」

「もともとはなんの目的で作られたんだろうな」

「ドキドキしますよねっ」

「おぬしら、観光じゃないのじゃぞ」


 王都の危機だとはわかっているが、遺跡に訪れるたびに古代の人類の生活に思いをはせずにはいられない。

 科学で栄えた古代文明。

 彼らは思いもしなかっただろう。自分たちが滅び、新たな人類が文明を築くなど。


 地図を描きながら迷宮を探索する。

 行き止まりに突き当たると、引き返して別の道へ。

 それを幾度も繰り返していると、やがて通路を抜けて広い空間に出た。


「あれ、魔物ですかね……?」


 広い空間には魔物が三匹うろついていた。


 オオカミに酷似した姿。

 明確に異なるのは、体毛が純白で、金色の刺繍のような模様があるところ。

 魔物と呼ぶにはどこか相応しくない、神聖な生物のように見えた。


「迷宮を守護するために生み出された魔物じゃろう」

「遺跡は邪悪なるものを退ける力があるから、あいつらは聖なる魔物というわけだな」

「倒していいのかしら?」


 話の分かる相手ではないのは間違いない。

 神聖だろうが邪悪だろうが、倒さなければ先には進めない。


「俺とマリアで先制攻撃をしかける。数を減らしたあとはプリシラに頼む」

「わかりましたわ」

「おまかせくださいっ」

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