11-3
「どうしましょう……」
「アッシュさま……」
俺を頼りにしてるディアとプリシラ。
とはいえ俺もどうすればいいのか見当もつかない。
肝心のスセリは魔力がまだ尽きているらしく、魔書『オーレオール』の中にいたまま一言も発しない。
せめてスセリが話すことができれば……。
俺が『オーレオール』の魔力を借りて、魔法であのゴーレム――ウルカロスを力ずくで退けることはおそらく可能だろう。
しかし、そうしたらセヴリーヌと敵対関係になりかねない。
まあ、あちらはスセリを『抹殺対象』としているから、とっくに敵対関係になっているのかもしれないが……。
それに、ゴーレムとはいえ、人語を話せる者を殺すようなマネは良心がとがめる。
ウルカロスはあくまで主の命令に忠実に従っているだけだからな。
「セヴリーヌから外に出てくれればいいんだがな……」
「あれほど派手な戦闘をしたので、わたくしたちの来訪に気付いたとは思いますが……」
遠くにあるセヴリーヌの家に目をやる。
玄関の扉は依然としてウルカロスが守護している。
セヴリーヌらしき人物の姿は見えない。
「大声で呼んでみましょうっ」
プリシラが提案する。
その提案を採用して、俺たちは再びセヴリーヌの家へと向かった。
慎重に歩を進め、ウルカロスの戦闘範囲外ギリギリまで近寄る。
ギロリ。
ウルカロスの赤い単眼が俺たちのほうを向く。
すくみ上るプリシラとディア。プリシラが俺の背中に隠れる。
ここが限界か。
「セヴリーヌ! スセリが会いにきたぞ!」
俺がそう叫ぶ。
「セヴリーヌさまー! 出てきてくださーい!」
「セヴリーヌさーん!」
プリシラとディアも俺に続いて大声で呼ぶ。
……。
……。
……。
しかし、やはり、いくら待っても返事はなかった。
しつこく何度も大声を上げて彼女を呼んでみたが、無意味な時間を過ごす結果に終わった。
「喉がカラカラです……」
ぐったりとうなだれるプリシラ。
「今日はもう帰りましょうか」
疲れ果てたディアもすっかり諦めていた。
セヴリーヌに会うのに失敗した俺とプリシラとディアは、宿屋『夏のクジラ亭』へと帰ってきた。
「おかえり。夕ご飯ならすぐ食べれるわよ」
宿屋のおかみ、クラリッサさんが母親みたいに俺たちを出迎えてくれた。
夕ご飯、と聞いた途端、どっと空腹が押し寄せてきた。
日暮れの太陽が窓から差し込み、ロビーを茜色に染めている。
もう夕食の時間だ。
廊下の向こうから食欲をそそるかおりが漂ってくる。
俺たちはそのかおりにいざなわれるかのように食堂へと向かった。
「帰ってきたか」
宿屋の店主兼料理人のヴィットリオさんが厨房からのっそりと現れた。
愛想のいいクラリッサさんとは対照的に、この人は相変わらず鷹や獅子のような強面だ。
「夕食を作る。席で待っていろ」
俺たちに背を向けたヴィットリオさんは厨房に戻っていった。
ぶっきらぼうだけどいい人だ。




