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プリシラが言う。
「で、でしゃばったことあえて言わせてもらいますっ。アッシュさまならどんな困難でも乗り越えてみせますっ。わたしのご主人さまなのでっ」
マリアもそれに続く。
「陛下。アッシュを信じてくださいまし。アッシュは鈍感なところはありますけれど、肝心なときはしっかり決めてくれますのよ」
スセリまでこう言う。
「こやつは魔書『オーレオール』を継承せし次代の『稀代の魔術師』。その気になれば世界すら滅ぼせる魔力の持ち主なのじゃ。それなのに野心も野望もない、呆れるほどの善人ときた。こき使うにはうってつけじゃぞ」
「……ぷっ」
真剣な面持ちだった国王陛下がこらえきれずに笑い声を出した。
そして天井を仰いで大笑いした。
「ははははっ。アッシュ・ランフォード。お前は本当に信頼されているのだな!」
「……も、もったいないくらいです」
照れくさくなって目をそらす。
国王陛下が「うむ」とうなずく。
「いいだろう。お前たちを信じてみよう」
玉座から立ち、こう命じた。
「お前たちを『ウルテラの迷宮』に立ち入るのを許可しよう。迷宮を調査し、魔力が吸収されている原因を突き止めるのだ」
こうして俺たちの『ウルテラの迷宮』の探索がはじまったのだった。
王城の地下。
俺とプリシラ、マリア、スセリは国王陛下とラピス王女の後に続いて長い廊下を歩く。
発光する魔法石で照らされた、薄暗くて肌寒い通路。
先頭に立つ国王陛下の歩みに同期して、ぽつりぽつりと魔法石に光が灯っていく。
通り過ぎた部分の魔法石の光は次々と消えていく。
ラピス王女が歩く速度を落として俺のとなりに並ぶ。
「ここにはわたくしも入ったことがありませんの。子供のころ、探検しようとしてひどく怒られたのをおぼえていますわ」
「おてんばだったんですね。王女は」
「子供はみんなそうではありませんの?」
「お前はもう少し王女らしい振る舞いをおぼえろ」
背中を向けたまま国王陛下が言った。
その口調は王というよりも父親のものだった。
階段を下りる。
階段もやたらと長く、不安になるほど俺たちは地下のさらに地下へと下りていく。
地の底まで下りるのではないか。
ようやく階段を下りきる。
その先に待っていたのは巨大な扉だった。
豪華な意匠の扉。
「ほう。この扉、魔法で封印がされておるのじゃ」
やはり王家の秘密の場所へと続く扉だけあって、特別な封印が施されているのか。
国王陛下が扉に手をかざす。
「我はグレイス王家の王なり」
そう唱えると、扉は重く軋む音を立てながらゆっくりと左右に割れていった。
扉が完全に開く。




