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ある日のこと。
俺とプリシラとスセリの三人で、冒険者ギルドの依頼で魔物討伐をしていた。
相手は金属のツノを持つ鹿型の魔物、スティールホーン。
草食動物の姿に似ているが、そいつは人間を襲う凶暴な性格をしている。
実際、こいつは街道にたびたび出現して通行人を襲っていたのだ。
スティールホーンが頭を下げて金属のツノを水平にし、切っ先を俺に向けて突進してくる。
俺は障壁の魔法を唱える。
目の前にせり出す光の壁。
突進してきたスティールホーンが障壁に激突する。
防御できた――と思いきや、障壁に亀裂が走る。
「いかんのじゃ!」
障壁が破られる寸前にスセリの魔力が継ぎ足されて修復される。
障壁を突破できなかったスティールホーンがよろめく。
そのすきをついて俺は光の矢を放った。
光の矢がスティールホーンの首に突き刺さる。
急所を攻撃されたスティールホーンは横倒しになり、絶命した。
「助かった。ありがとう、スセリ」
「おぬし、油断しておったじゃろ」
「そんなつもりはなかったんだがな……」
スセリの言うとおり、魔物との戦いに慣れて油断していたのかもしれない。
ただ、魔法の障壁はあの程度では壊れないはず。
もっと魔力を込める必要があったのか……?
些細な異変は続けて起こった。
「腐ってますわ!」
俺たちが『シア荘』に帰ってきてからしばらくすると、マリアがいきなりそう叫んだ。
「なんじゃ、マリア。腐敗したこの世の中に嫌気がさしたか?」
「スセリさまじゃあるまいし、そんなことはありませんわ。腐ったのはお肉ですわ」
マリアが皿に乗せた肉を持ってくる。
肉は紫色に変色していて、鼻をつく嫌なにおいがしていた。
完全に痛んでいる。
「冷蔵庫が壊れたのかしら」
古代文明の技術を応用した、冷気を出す箱。
その中に手を入れてみると、冷気はほとんど出ていなかった。
これでは保管していた食材が痛むのも当然だ。
「ふむ、魔力がぜんぜん足りていないのじゃ」
冷蔵庫から発せられる魔力は微弱だった。
だから満足に冷気を出せなかったのだ。
「のじゃっ!?」
今度はスセリが変な声を出す。
「端末の充電がもう尽きてしまっておる。さっき魔力を込めたばかりなのじゃぞ」
そういった数々の小さな異変。
単なる偶然かと思ったが、そうではなかった。
数日後、俺たちはギルド長のエトガー・キルステンに呼び出された。
「来たか。アッシュ・ランフォード」
キルステンさんが俺たちを呼ぶときは決まって困難な仕事の依頼をまかせるときだ。
今回もそうなのだろう。
「ここ数日、身の回りに異変はないか?」
「異変、ですか」
「たとえば、魔力が不足しているとかだ」
身に覚えがあったので、それらをキルステンさんに伝える。
「魔法の障壁が弱かったのも、冷蔵庫や端末が故障したのも、単なる偶然ではない」




