105-4
俺の予想は当たっていた。
それから数日後にベオウルフがやってきて、こう言ったのだ。
「アッシュお兄さんの言うとおりでした。ヴァルナなんとかというものは、師匠が適当に名付けた存在しないものでした」
「ひどい! ベオのお師匠さまがベオに見つからないものをさがさせたなんて」
「いいんだよ、プリシラ。師匠はちゃんと理由を教えてくれたし」
ベオウルフの師匠が彼女に存在しないものをさがさせた理由。
それは二つあった。
一つは王都を隅々まで見させるため。
王都はこの国の中枢で、いろいろなものがある。
それを見て回り、見識を深めるのが大事だと師匠は言ったらしい。
「いろんなお店を見て回ったり、図書館を利用したりしました。王都は本当に広くていろんなものがあるのだとあらためてわかりました」
もう一つは、悪意を持つ者がいること。
困っている人に付け込んでだます者がいるのだと師匠は実体験させたのだ。
王都には輝かしい部分もあるし、その影となる暗い部分もある。
「ゲイズのような悪人が、困っている人をだましているんですね」
そういった、自分の身をもって体験しないとわからないものを彼女の師匠は教えたかったのだ。
ヴァルナスティルトゥリヴァは存在しない。
それが答えだった。
そして大事なのは、その答えに至るまでの過程だったのだ。
「今回の件でボクは確かに成長できたと思います。師匠のおかげです」
ベオウルフは少し口元を動かして、控えめに笑う。
「アッシュお兄さんやプリシラとさがしものをするのも楽しかったです」
「ベオと冒険できてわたしも楽しかったよっ」
ベオウルフの師匠は本当に彼女を気にかけているのだろう。
「二人にはお礼をしなくちゃいけないですね。二人の助けがあったから、師匠の課題を乗り越えられたのですから」
考え込むベオウルフ。
「でも、ボクは他人にあげられるものなんてなにもない」
「貸し借りにこだわる必要なんてないさ。俺だってベオウルフの剣術に助けられたことだってあるんだから」
「そうだよベオ。友達同士に貸し借りなんてないんだよ」
「……なるほど」
ベオウルフは友達であり、仲間だ。
かけがえのない、大切な。
貸し借りや損得勘定なんて無粋だろう。
「あ、そういえばアッシュお兄さん。師匠から伝言を預かっていました」
「伝言?」
「『ベオウルフの友達になってくれてありがとう』って。そして――」
いったんそこで言葉を区切り、しばしの沈黙のあとに続ける。
「『ぜひベオウルフと結婚してほしい』って」
「ダメーッ!」
プリシラが大声を上げて、俺とベオウルフの間に割り込む。
そして宝物を奪われまいと、俺の腕に自分の腕を回した。
「こればかりはベオには譲れないよっ」
「……でも、師匠公認だから」
「それでもダメッ」
プリシラは頬をふくらませて俺にしがみつくのだった。




