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ゲイズ率いる悪党たちを包囲した冒険者たち。
その数は悪党たちを圧倒的に上回っている。
ゲイズが忌々しげな表情になる。
「卑怯ですよ!」
「悪党が卑怯を口にするな」
呆れたやつだ。
歯ぎしりしていたゲイズだったが、抵抗しても無為だと理解したのだろう。手下たちに合図して、武器を足元に捨てて両手を上げて降伏の意思を示した。
その後の彼らは冒険者ギルドによって拘束され、憲兵に引き渡されたのだった。
「おぼえていなさいよ……」
捨て台詞を残して俺の前から消えた。
やつらは牢屋に入れられた末、裁判によって裁かれてしかるべき判決を下されるだろう。
ちなみに、この国で誘拐は重罪である。
しかも、これが初犯とは到底思えないから、余罪もざくざく出てくるだろう。
欲をかいたばかりに破滅に陥った悪党たち。
彼らはこれから長い年月を罪の償いに費やされるだろう。
同情の全くしない連中で俺も安心した。
しかし、やつらも驚いたろうな。
世間知らずな田舎貴族をカモにしようとしたら、逆に餌食にされたのだから。
冒険者たちが立ち去ると、その場には俺と、冒険者たちといっしょにやってきたベオウルフが残った。
「アッシュお兄さん、ゲイズが嘘をついてるってわかってたんですか」
「あんなバレバレな嘘ならな」
ゲイズはおそらく俺たちの話を偶然耳にしたのだろう。
そしてヴァルナスティルトゥリヴァをエサに、俺たちを釣ろうとした。
結果として釣られたのは自分たちだったのだが。
それにしても、悪党ってやつらはよくもこう悪事を思いつくものだ。
関心ではない。呆れているだけだ。
「またヴァルナなんとかを見つけられませんでしたね」
しょぼんとうなだれるベオウルフ。
彼女は今度こそ目的のものを手に入れられると信じていた。
悪党に騙されてかわいそうだ。
「なあ、ベオウルフ」
だから俺は、自分の中に浮かんだある考えを彼女に聞かせた。
「もしかすると、ヴァルナスティルトゥリヴァなんて存在しないんじゃないか?」
「えっ?」
ベオウルフがきょとんとする。
ぱちぱちとしきりにまばたきしている。
「存在しない、って、どういう意味ですか?」
「言っている意味のままだ。ヴァルナスティルトゥリヴァっていう名前は、ベオウルフの師匠が適当に名付けたんじゃないか? 存在しないものに」
「ですけど、そうなるとボクの師匠は――」
ベオウルフの師匠は、ぜったいに見つからないものを彼女にさがさせていたことになる。
ベオウルフはそんなこと信じられないのだろう。
だが、もはやそうとしか考えられない。
「家に帰ったら師匠に言ってみてくれないか? 俺の考えを」
「……」
「信じてくれ。たぶんこれが正解だ」
「……わかりました。アッシュお兄さんを信じます」




