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そして、打ち捨てられた廃屋へと入った。
ホコリっぽい部屋の中央には人の型に似たようなオブジェが保管されていた。
「これこそがあなたがたのさがしていたものです」
「これがヴァル――えっと……、ヴァルナスティルトゥリヴァなんですか?」
「ええ、もちろん。そのとおりですとも」
ゲイズさんにはにこやかな笑みで肯定した。
プリシラがぴょんとはねてよろこぶ。
「やったねベオ! ついに見つけたよっ」
「うん。まさかこんなところにあったなんて」
「およろこびいただけたようで光栄です」
妙にうさんくさい、にこにことした笑みを浮かべているゲイズさん。
俺は彼の顔をじっと見ていた。
「あれ、でもヴァルなんとかは食材だったはずじゃ」
ベオウルフが疑問を口にする。
ゲイズさんは「いえいえ」と今度は首を横に振った。
「それはきっとなにかの間違いでしょう。あなたがたのさがしているものはまさしくこれです」
「そうですか……」
どうにも腑に落ちない。
俺は疑念のまなざしをゲイズさんに向ける。
ゲイズさんが「そうそう!」といきなり声を張り上げて手をぽんと合わせる。
「こちらの品、あなたがたの他にも欲しがっている方がいましてね。早い者勝ちなんです」
「ええーっ」
驚くプリシラ。
「残念な結果にならぬように、迅速な決断をしていただければ幸いです」
「決断ですか」
「わたくしも無償でお譲りするわけにはいきませんので」
「いくらですか」
ゲイズさんが値段を言う。
……かなりの高額だ。
買えないことはもないが、俺たちの財産のおよそ半分に値する。
「わかりました」
ベオウルフがうなずく。
「まいどありが――」
「わかりました。いりません」
彼女がそう返事をすると、ゲイズさんはぽかんと口を開けた。
「いらないのですか? 買える機会はもう二度とありませんよ。あ、こちらの品、世界に唯一これしか存在していないのです」
「ボクにはそんなお金ありませんので」
するとゲイズさんの視線が俺に移る。
「そちらのおぼっちゃんなら、用立てられるのではありませんか? お見かけしたところ、貴族のご令息のようですので」
「アッシュお兄さんにそんな大金を払わせるわけにはいきません」
俺の意見としては、ベオウルフのためなら払っても構わない。
もっとも、俺たちの財産は『シア荘』のみんなのものだから、独断では出せない。
ただ、実家の父上に頼めば仕送りしてくれるだろう。
「ベオウルフ。俺が父上にお願いしてお金を出してもらうよ」
「いいんですか?」
「ベオウルフのためだからな」
ベオウルフは罪悪感を抱いているらしく、すなおによろこんではくれなかった。




