表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

731/842

105-1

 そして、打ち捨てられた廃屋へと入った。

 ホコリっぽい部屋の中央には人の型に似たようなオブジェが保管されていた。


「これこそがあなたがたのさがしていたものです」

「これがヴァル――えっと……、ヴァルナスティルトゥリヴァなんですか?」

「ええ、もちろん。そのとおりですとも」


 ゲイズさんにはにこやかな笑みで肯定した。

 プリシラがぴょんとはねてよろこぶ。


「やったねベオ! ついに見つけたよっ」

「うん。まさかこんなところにあったなんて」

「およろこびいただけたようで光栄です」


 妙にうさんくさい、にこにことした笑みを浮かべているゲイズさん。

 俺は彼の顔をじっと見ていた。


「あれ、でもヴァルなんとかは食材だったはずじゃ」


 ベオウルフが疑問を口にする。

 ゲイズさんは「いえいえ」と今度は首を横に振った。


「それはきっとなにかの間違いでしょう。あなたがたのさがしているものはまさしくこれです」

「そうですか……」


 どうにも腑に落ちない。

 俺は疑念のまなざしをゲイズさんに向ける。

 ゲイズさんが「そうそう!」といきなり声を張り上げて手をぽんと合わせる。


「こちらの品、あなたがたの他にも欲しがっている方がいましてね。早い者勝ちなんです」

「ええーっ」


 驚くプリシラ。


「残念な結果にならぬように、迅速な決断をしていただければ幸いです」

「決断ですか」

「わたくしも無償でお譲りするわけにはいきませんので」

「いくらですか」


 ゲイズさんが値段を言う。

 ……かなりの高額だ。

 買えないことはもないが、俺たちの財産のおよそ半分に値する。


「わかりました」


 ベオウルフがうなずく。


「まいどありが――」

「わかりました。いりません」


 彼女がそう返事をすると、ゲイズさんはぽかんと口を開けた。


「いらないのですか? 買える機会はもう二度とありませんよ。あ、こちらの品、世界に唯一これしか存在していないのです」

「ボクにはそんなお金ありませんので」


 するとゲイズさんの視線が俺に移る。


「そちらのおぼっちゃんなら、用立てられるのではありませんか? お見かけしたところ、貴族のご令息のようですので」

「アッシュお兄さんにそんな大金を払わせるわけにはいきません」


 俺の意見としては、ベオウルフのためなら払っても構わない。

 もっとも、俺たちの財産は『シア荘』のみんなのものだから、独断では出せない。

 ただ、実家の父上に頼めば仕送りしてくれるだろう。


「ベオウルフ。俺が父上にお願いしてお金を出してもらうよ」

「いいんですか?」

「ベオウルフのためだからな」


 ベオウルフは罪悪感を抱いているらしく、すなおによろこんではくれなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ