11-2
ゴーレムが恭しく頭を下げる。
「わたくしは執事のウルカロスと申します。以後、お見知りおきを」
ゴーレムはウルカロスと名乗った。
ゴーレムに名前があるのか……。
なんにせよ、よかった。意思疎通のできる相手で。
ぴょん、とプリシラがウルカロスの前に出る。
「ウルカロスさん。わたしたち、セヴリーヌさまに会いにきたんです。ここを通してくれませんか」
「申し訳ありません。何人たりとも家に入れるなとセヴリーヌさまに命じられておりますゆえ、ここを通すわけにはまいりません」
ゴーレムが家の前に立ちはだかっている時点で、そんな返事が来るだろうと予想はしていた。
「セヴリーヌの友人のスセリでも通してくれないのか?」
「スセリ……スセリさまですか……」
「スセリは魂だけになってこの本に宿っているんだ」
魔書『オーレオール』をウルカロスに見せる。
治癒魔法を使って魔力が完全に尽きたのか、スセリはうんともすんとも言わない。
「ふむ……。少々お待ちを」
ウルカロスの赤い単眼が点滅する。
「データベース照合中……データベース照合中……」
そんな言葉を何度も繰り返す。
「データ検索完了」
眼の点滅が止まる。
「『稀代の魔術師』スセリ――抹殺対象」
「ふえっ!?」
ま、抹殺!?
急にとんでもない言葉が出てきた。
「命令実行。対象の抹殺を開始します」
ウルカロスが大木のごとき巨腕を振り上げる。
俺たちは大慌てで散り散りに逃げる。
振り下ろされた巨腕が地面に叩きつけられる。
すさまじい爆音と共に土煙が巻き上がり、大地が震動する。
土煙が晴れると、ウルカロスの巨腕は地面にめり込んでいて、そこを中心に幾本もの亀裂が走っていた。
「ま、待ってくれ! ウルカロス!」
「抹殺に失敗。攻撃を続行します」
ウルカロスの赤い単眼が俺を見つめる。
その眼が激しく光りだす。
「魔法の障壁よ!」
大慌てで魔法を唱える。
俺の目の前に半透明の魔法障壁がせり出してくる。
次の瞬間、ウルカロスの眼から光線が発射された。
俺を狙った光線は魔法障壁に阻まれて相殺された。
「今のうちに逃げるぞ!」
「はいっ」
「わかりましたっ」
俺とプリシラとディアはウルカロスに背を向け、全速力で逃げ出した。
何本も飛んでくる赤い光線を避けつつ走る。
狙いの外れた光線が地面に着弾して爆発し、その衝撃波で何度も足がもつれそうになる。
だが、家を守るという命令も守らなければならないのか、さいわいにもウルカロスはその場から一歩も動かず、光線の射程外まで離れた俺たちを見逃してくれた。
海岸沿いの街道まで逃げてきた俺たちは、ぜえぜえ肩で息をしていた。
とんでもない目にあった……。
「セヴリーヌさんは確か、スセリさんのご友人だったはずですよね……」
悪友とは言っていたが、それにも程度がある。
抹殺対象なんて、どう考えても友人とは正反対の関係だ。




