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104-6

 ベオウルフが興味を示した本を借りられたのはよかったものの、肝心のヴァルナなんとかとやらの正体はつかめなかった。



 ある日、冒険者ギルドにて。

 ギルド長のエトガー・キルステンさんに呼ばれて、俺とベオウルフはギルド長室に足を運んだ。


「ベオウルフ。今日はお前に話があって呼んだ次第だ」

「ボクですか」


 ベオウルフが自分を指さす。

 キルステンさんは「ああ」と首肯する。


「お前の剣の腕前は目を見張るものだ。その実力を王都の人々のために役立ててみないか」


 これは勧誘だ。

 ベオウルフに対する冒険者への。


 ベオウルフは少し驚いた表情を、見開いた目で表現する。

 彼女は少しだけ考えたあと、こう答えた。


「ボクは、一人静かに暮らすほうが好きです」

「アッシュ・ランフォードやあのメイドを好いているのにか?」

「アッシュお兄さんたちは特別です。なにかの集団に属するのは……」


 それもしかたない。

 ベオウルフは今まで人里離れた山で、師匠と二人で暮らしてきたのだ。

 いきなり冒険者の一員になれと言われても困惑するだろう。


「冒険者になったら誰かに指図されて、仕事や戦いをさせられるんですよね。ボクにはちょっと難しいかと思います」

「……ふむ」


 しかし、キルステンさんはそれで引き下がらなかった。


「お前は日々、どうやって暮らしているんだ。山で暮らすにしても、先立つものは必要だろう」

「えっと、ふもとの集落の人たちと交流して、食べ物をもらっています。魔物や山賊を追い払ったりして」

「その見返りに、か」

「はい」

「冒険者も同じだ。他者を助け、その見返りを受け取っている」


 キルステンさんは窓に目をやる。


「もともと冒険者ギルドはならず者たちを統率するという建前のもとに作られた組織だ。まっとうな仕事に就けない、戦いの腕しか能のない連中は、なにかの拍子に治安を悪化させかねないからな」

「ボクもその一人だと」

「そうは言ってない。だが、お前がいともたやすく人を殺すすべを心得ているのは確かだ」


 再びベオウルフは考える。

 そこにキルステンさんが一押しした。


「それに、冒険者になればアッシュ・ランフォードたちと仕事ができる」

「あ、それは楽しいかもしれません」


 ベオウルフが俺を見上げる。

 俺はにこりと笑った。


 ベオウルフには冒険者になってもらいたい。

 剣の腕前を人々の役に立ててもらいたいのだ。


「少し考えさせてください。師匠とも相談しなくちゃいけませんし」

「いつでもかまわない。決心したら私に会いにくるといい」

「そうさせてもらいます」


 と、そこで会話は終わると思いきや、ベオウルフはこう尋ねた。


「ところでキルステンさん。ヴァルナスティルトゥリヴァはご存じですか?」

「……?」


 眉をひそめるキルステンさん。


「もう一度言ってくれ」

「ヴァルナスティルトゥリヴァです」

「……なにかの呪文か?」


 がっくりと肩を落としたベオウルフだった。

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