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104-3

「どんな見た目をしているんだ? そのヴァルなんとかは」

「わかりません」


 即答。

 うなだれるベオウルフ。


「師匠は名前しか教えてくれなかったんです。それが野菜なのか果物なのかすらボクにはわからないんです」


 俺たちは困り果ててしまう。

 そんな聞いたこともない食材をさがさなくてはならないなんて……。


「よし、市場のお店の人たちに片っ端から尋ねよう。手分けして」

「かしこまりましたっ」

「ありがとうございます。アッシュお兄さんはやっぱり頼りになりますね」


 ベオウルフがクールな笑みを浮かべる。

 彼女に直球で好意を寄せられると、どうしても照れてしまう。


「将来、ボクと結婚してくださいね」

「ダメーッ!」


 そう叫んだのはプリシラだった。

 俺とベオウルフはぎょっとする。

 プリシラはかなり焦っている。


「ア、アッシュさまと結婚するのは――」

「プシリラなんでしょ? 知ってるよ。ボクは二番目の奥さんでいいから」


 平然とベオウルフはそう言う。

 しかし、プリシラはなんとももどかしげな面持ちをしていた。


「アッシュさまのお嫁さんは、できれば一人だけにしてほしいんです……」

「えっ、どうして?」

「ううー」


 プリシラは答えに窮する。


「と、とにかく、たとえ親友のベオでもアッシュさまは譲れないからね」

「……」


 ベオウルフは考え込む。

 それからこう返事をした。


「妥協点はないかな」

「こればっかりは真剣勝負だよ、ベオ」

「プリシラと戦うんだね」


 ベオウルフは覚悟を決めかねていた。

 なんだか話がそれてしまったな。


「それよりも二人とも、ヴァルなんとかをさがさないか?」

「そ、そうですね。ベオ。ヴァルなんとかの名前、もう一度教えて」



 俺とプリシラはメモに『ヴァルナスティルトゥリヴァ』としっかり書く。

 そして時間を決め、手分けしてその食材をさがすのを開始した。

 俺は手始めに近くの魚売りに尋ねる。


「ヴァルナスティルトゥリヴァありませんか?」

「はい?」


 店主の老人が予想どおりの反応をする。



「ヴァルナスティルトゥリヴァです」

「そんなもの、うちにはないよ」


 やはり。

 別の店で同様の質問をする。


「お兄ちゃん、からかってるのか」

「す、すみません……」


 他にも野菜売りや果物売りにも同様に訪ねてみたが、返事は最初の魚売りといっしょだった。

 あっという間に約束の時間になり、待ち合わせの場所に集合する。


「見つかりましたか?」

「いや」

「そうですか……。わたしもです」

「ボクもです」


 見つけるどころかほんのわずかな手がかりすらつかめなかった。

 ヴァルナスティルトゥリヴァの存在を知る者は一人としていなかったのだ。


「アッシュさま。一度『シア荘』に帰りませんか?」

「そうしよう。みんなもおなかを空かせて待ってるだろうし」

「では、ボクもいったん帰ります。協力していただきありがとうございました」

「よかったらベオもうちにこない?」

「気持ちだけ受け取っておく。師匠が心配するだろうから」

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