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104-2

 ぺこりとおじぎ。

 礼儀正しいな、ベオウルフは。

 感情の表現には乏しいが、俺は彼女がすなおでいい子なのを知っている。


「アッシュお兄さんたちはお買い物ですか?」

「昼食の食材を買いにな。ベオウルフはわざわざ山から下りて王都まで食材を買いにきたのか?」


 ベオウルフは師匠と山で暮らしている。

 以前、その場所を教えてもらったが、ちょっと昼食の買い物を、なんて軽い気持ちで王都へ足を運べるような場所ではない。

 もっと近くに小さな村があったはず。食材を買うならそこで事足りそうだが。


「食材……。そうですね。ボクは食材を買いにきました」

「わざわざ王都まで? ベオ」

「うん。ふもとの村には売ってなかったから」


 なにを作るつもりだろうか。


「この店には売ってた?」

「いや、売ってなかったよ」

「悪かったね、品ぞろえが悪くて」


 しまった、露店の店主に嫌な顔をされてしまった。

 気まずくなった俺たちは笑ってごまかして店を離れた。


「わたしたちもいっしょにさがしてあげるよ、ベオが欲しがってる食材。いいですよね? アッシュさま」

「ああ。それくらいならお安い御用だ」

「うーん」


 しかし、ベオウルフはなおも悩んでいる表情をしている。

 腕組みしてずっと「うーん」とうなっている。


「こればかりはアッシュお兄さんたちでも見つけられないかも」

「珍しい食材なのか?」

「おそらくそうかと。そうでなければ試験の意味がないので」


 試験?

 だめだ。話が見えてこない。


「昼食の食材を買いにきたわけではないんです」


 話を聞くに、ベオウルフの師匠はときおり、彼女の能力を試すために試験を課すのだという。

 試験の課題は大まかにわけて二つ。


 一つは戦いの試験。野生動物や、ふもとの村の治安を守るついでの、野盗と戦う試験らしい。物騒だが、俺は彼女の恐るべき剣技の数々があればどうともでもなるのだろう。

 もう一つは学力の試験。人間たるものかしこくなければいけないという理念の元、ベオウルフに学校のテストのようなものを出すのだとか。そのため彼女は山暮らしでありながら非常にかしこい。


 今回はいずれとも違った。

 とある食材を手に入れてくる。

 それが試験の内容だった。


「食材の名前を教えてくれ」

「はい」


 ベオウルフはポケットから紙切れを出して、そこに書かれたメモを見ながら言った。


「ヴァルナスティルトゥリヴァ」

「……へ?」


 プリシラの目が点になる。

 俺も間違いなく同じような表情をしているだろう。


「も、もう一度言ってくれ……」

「ヴァナル――じゃなかった……。ヴァルナティ――えっと、ヴァルナスティルトゥリヴァです」


 何度も噛みながらベオウルフはその名を再び言った。

 俺とプリシラは顔を見合わせる。

 プリシラは困った表情をして首を横に振った。


 聞いたことのない食材だ。

 しかし、まるで呪文みたいなややこしい名前の食材だ。

 野菜なのか香辛料なのか、その名からは連想できない。

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