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ある日の昼下がり。
俺は王都の大通りをプリシラと歩いていた。
昼食の食材の買い物だ。
プリシラは上機嫌で俺のとなりを歩いている。
鼻歌でも歌いそうな雰囲気だ。
ときどき俺のほうをちらりと見てくる。
俺が笑みを返すと、彼女も恥ずかしげにはにかんだ。
「王都は今日もにぎやかですね」
「ああ。この前、ケルタスに戻ったとき、繁華街の人が少ないと感じてしまったくらいだからな。あの街だって大きいはずなのに」
なんて雑談を繰り返しながら歩く。
人通りが多いので、通行人とぶつからないように気をつけながら。
プリシラが頬を赤く染めて、上目づかいで俺を見る。
「も、もしかするとわたしたち、恋人――いえ、夫婦に見られているかもしれませんねっ」
そ、それはないと思う……。
間違われるとしたら兄妹だろう。
しかもプリシラはメイド服だから、兄妹とも思われないかもしれない。
なんて正直に答えると彼女を落ち込ませてしまうだろうから、俺は肯定も否定もせず「ははっ」と笑うだけにした。
「うーん、今日のお昼はなににしましょうか。まだ決まってないんです」
「プリシラの作る料理ならなんでもいいさ。どれもおいしいだろうからな」
「アッシュさま……。てへへ」
くすぐったそうに身をよじるプリシラ。
「で、でも、それだとやっぱり困るんですよね……」
「なら、スパゲティにしないか? ケルタスでヴィットリオさんが振舞ってくれたのを思い出して、食べたくなったな」
「スパゲティですね。わかりましたっ」
プリシラがぐっと握りこぶしを掲げて気合いを入れる。
「ソースはどうしましょう」
「トマトソースがいいな」
あの酸味を思い出すだけでよだれが出てくる。
思い出すと、異様にスパゲティが食べたくなった。
ヴィットリオさんに弟子入りしたプリシラなら、きっと満足のいくものを作ってくれるだろう。
「あ、でも、今からトマトソースをつくるとしたら時間が……」
「お店で買うのはどうだ? さすがにソースから手作りの本格派までは欲張らないさ」
そういうわけで、トマトソースを買うために食材屋へと向かうことにした。
その途中、俺とプリシラは数多の人々の中から顔見知りの少女を見つけた。
「ベオっ」
ショートカットの小柄な少女。
クールな雰囲気のする彼女はベオウルフだった。
ベオウルフは露店の前に立っていて、山積みにされた野菜を眺めていたのだった。
「ベオ、奇遇だね。王都に来てたの?」
近づいてもう一度声をかける。
それでベオウルフもこちらに気付いた。
野菜に向けていた視線がこちらに向けられる。
「あ、プリシラにアッシュお兄さん」




