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104-1

 ある日の昼下がり。

 俺は王都の大通りをプリシラと歩いていた。

 昼食の食材の買い物だ。


 プリシラは上機嫌で俺のとなりを歩いている。

 鼻歌でも歌いそうな雰囲気だ。


 ときどき俺のほうをちらりと見てくる。

 俺が笑みを返すと、彼女も恥ずかしげにはにかんだ。


「王都は今日もにぎやかですね」

「ああ。この前、ケルタスに戻ったとき、繁華街の人が少ないと感じてしまったくらいだからな。あの街だって大きいはずなのに」


 なんて雑談を繰り返しながら歩く。

 人通りが多いので、通行人とぶつからないように気をつけながら。

 プリシラが頬を赤く染めて、上目づかいで俺を見る。


「も、もしかするとわたしたち、恋人――いえ、夫婦に見られているかもしれませんねっ」


 そ、それはないと思う……。

 間違われるとしたら兄妹だろう。


 しかもプリシラはメイド服だから、兄妹とも思われないかもしれない。

 なんて正直に答えると彼女を落ち込ませてしまうだろうから、俺は肯定も否定もせず「ははっ」と笑うだけにした。


「うーん、今日のお昼はなににしましょうか。まだ決まってないんです」

「プリシラの作る料理ならなんでもいいさ。どれもおいしいだろうからな」

「アッシュさま……。てへへ」


 くすぐったそうに身をよじるプリシラ。


「で、でも、それだとやっぱり困るんですよね……」

「なら、スパゲティにしないか? ケルタスでヴィットリオさんが振舞ってくれたのを思い出して、食べたくなったな」

「スパゲティですね。わかりましたっ」


 プリシラがぐっと握りこぶしを掲げて気合いを入れる。


「ソースはどうしましょう」

「トマトソースがいいな」


 あの酸味を思い出すだけでよだれが出てくる。

 思い出すと、異様にスパゲティが食べたくなった。

 ヴィットリオさんに弟子入りしたプリシラなら、きっと満足のいくものを作ってくれるだろう。


「あ、でも、今からトマトソースをつくるとしたら時間が……」

「お店で買うのはどうだ? さすがにソースから手作りの本格派までは欲張らないさ」


 そういうわけで、トマトソースを買うために食材屋へと向かうことにした。

 その途中、俺とプリシラは数多の人々の中から顔見知りの少女を見つけた。


「ベオっ」


 ショートカットの小柄な少女。

 クールな雰囲気のする彼女はベオウルフだった。

 ベオウルフは露店の前に立っていて、山積みにされた野菜を眺めていたのだった。


「ベオ、奇遇だね。王都に来てたの?」


 近づいてもう一度声をかける。

 それでベオウルフもこちらに気付いた。

 野菜に向けていた視線がこちらに向けられる。


「あ、プリシラにアッシュお兄さん」

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