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ケイが笑いながら肩をすくめる。
「まあ、でもしばしのお別れにはなるね。ちょっとさみしいよ。せっかく友達ができたのに」
「ケイは友達が少ないものね」
「そんなわけないだろっ」
からかう妹と慌てる兄。
仲のいい兄妹だな。
俺も兄たちとこれくらい仲がよければ……。
なんて考えてしまう。
俺は兄たちに見下されてきたからな。
ただ、そんな関係だったからこそ今の俺があるともいえる。
運命とは奇妙なもので、絡まり合う糸のごとくいろいろな出来事が未来へと作用している。
「ほら、アッシュさんも呆れてるじゃない」
イリスがジト目で兄を小突く。
ケイがぷくっとほっぺたをふくらませて抗議する。
「呆れてないよ、ねえ、アッシュくん」
「ああ。逆にうらやましいって思ってたんだ」
「アッシュさま……」
プリシラが心配そうな表情になる。
マリアもなにか言いたげだった。
「そうだっ」
ケイがぽんと手を合わせる。
「そんなにうらやましいのならアッシュ、キミもサンブロスに加えてあげよう」
そう提案される。
にこにこしているケイ。
イリスも「名案ね」と言っている。
しばし考えたあと、俺は首を横に振った。
「気持ちはうれしいけど、俺の居場所は『ここ』だから」
俺は視線でプリシラ、マリア、スセリを見た。
17年生きてきて、決していい思い出だけではなかった。
むしろそうでないほうが多かった。特にスセリと出会う前までは。
だが、今の暮らしは充実している。
なぜなら俺には彼女たちがいるから。
俺の居場所は『ここ』なのだ。
「……そうか。よかったねっ」
残念そうだったが、ケイは元気にうなずいた。
それに、サンブロスは血のつながった兄妹二人組。
そんな関係に水を差すわけにはいかない。
「ケイもイリスも大事にしてくれ。兄妹という関係を」
「ええ、もちろんよ」
「俺たちのきずなは決してほころびないさ。当然、アッシュくんたちとの友情もね」
後日、王都の駅にて。
俺たちはプラットホームにいる。
目の前には黒い列車。
列車の行き先は南の街。
列車の窓越しに映っているのはケイとイリス。
二人は名残惜しそうな表情をしている。
まもなく発車の時刻。
プラットホームに散らばっていた人々がぞろぞろと列車に乗り込んでいく。
やがて多くの人々が列車に乗り込むと、車掌が甲高い笛を鳴らした。
列車の扉が一斉に閉まる。
びっくりするほどの大きな汽笛の音。
ゆっくりと列車が動き出す。
最初はのんびりとしたした速度でプラットホームを出ていった列車は、徐々に加速していき、やがて猛進する獣のごとき速度になって、その巨体からは信じられない速さで視界の彼方へと消えていった。




