表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

723/842

103-7

 ケイが笑いながら肩をすくめる。


「まあ、でもしばしのお別れにはなるね。ちょっとさみしいよ。せっかく友達ができたのに」

「ケイは友達が少ないものね」

「そんなわけないだろっ」


 からかう妹と慌てる兄。

 仲のいい兄妹だな。


 俺も兄たちとこれくらい仲がよければ……。

 なんて考えてしまう。

 俺は兄たちに見下されてきたからな。


 ただ、そんな関係だったからこそ今の俺があるともいえる。

 運命とは奇妙なもので、絡まり合う糸のごとくいろいろな出来事が未来へと作用している。


「ほら、アッシュさんも呆れてるじゃない」


 イリスがジト目で兄を小突く。

 ケイがぷくっとほっぺたをふくらませて抗議する。


「呆れてないよ、ねえ、アッシュくん」

「ああ。逆にうらやましいって思ってたんだ」

「アッシュさま……」


 プリシラが心配そうな表情になる。

 マリアもなにか言いたげだった。


「そうだっ」


 ケイがぽんと手を合わせる。


「そんなにうらやましいのならアッシュ、キミもサンブロスに加えてあげよう」


 そう提案される。

 にこにこしているケイ。

 イリスも「名案ね」と言っている。


 しばし考えたあと、俺は首を横に振った。


「気持ちはうれしいけど、俺の居場所は『ここ』だから」


 俺は視線でプリシラ、マリア、スセリを見た。

 17年生きてきて、決していい思い出だけではなかった。

 むしろそうでないほうが多かった。特にスセリと出会う前までは。


 だが、今の暮らしは充実している。

 なぜなら俺には彼女たちがいるから。

 俺の居場所は『ここ』なのだ。


「……そうか。よかったねっ」


 残念そうだったが、ケイは元気にうなずいた。

 それに、サンブロスは血のつながった兄妹二人組。

 そんな関係に水を差すわけにはいかない。


「ケイもイリスも大事にしてくれ。兄妹という関係を」

「ええ、もちろんよ」

「俺たちのきずなは決してほころびないさ。当然、アッシュくんたちとの友情もね」


 後日、王都の駅にて。

 俺たちはプラットホームにいる。

 目の前には黒い列車。


 列車の行き先は南の街。

 列車の窓越しに映っているのはケイとイリス。

 二人は名残惜しそうな表情をしている。


 まもなく発車の時刻。

 プラットホームに散らばっていた人々がぞろぞろと列車に乗り込んでいく。

 やがて多くの人々が列車に乗り込むと、車掌が甲高い笛を鳴らした。


 列車の扉が一斉に閉まる。

 びっくりするほどの大きな汽笛の音。

 ゆっくりと列車が動き出す。


 最初はのんびりとしたした速度でプラットホームを出ていった列車は、徐々に加速していき、やがて猛進する獣のごとき速度になって、その巨体からは信じられない速さで視界の彼方へと消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ