11-1
「アッシュさん……。プリシラさん……」
ディアは目の端に涙の粒を浮かべる。
俺たちが出会わなかったら、あの矢はディアの心臓を貫いていた。
魔書『オーレオール』の継承者の俺だからこそ、彼女を守れたのだ。
彼女を守れて本当によかった。
「みなさんとの出会いはきっと、運命なのかもしれません。神のはからいによってわたくしたちは出会えたのでしょう」
運命……神……。
ずいぶんと大げさだが、確かにそんな大きな力によって俺たちは引き合わされたのかもしれない。
俺が金属召喚で『オーレオール』を手に入れなければ、ランフォード家から追放されなければ、ディアは孤独の旅の果てに倒れていただろう。
そんな出来事が重なって今がある。
確かにこれは、偶然なんて言葉で片付けられないな。
それから俺たちは海沿いの街道に戻り、再びセヴリーヌのもとへと目指した。
クロノスの暗殺者がまた来るかと警戒していたが、人通りのある道を歩いているためか、襲撃はなかった。
そして地図に描かれた灯台がついに見えた。
灯台のそばには大きな煙突のついた小さな家がある。
あれがセヴリーヌの家だな。
「アッシュさま。家の前になにか立っていませんか?」
プリシラの言うとおり、玄関の扉をふさぐように家の前になにかが立っていた。
人型の石像……に見える。
それにしても大きい。家の屋根よりも背が高い。
「なんでしょうね」
「ここからじゃ遠くてよくわからないな。とにかく家まで行ってみよう」
街道を進み、とうとう灯台の下に建つ家までたどり着いた。
「……ゴーレムだったのか」
家の前に立っていたのは命を吹き込まれた石造りの人形、ゴーレムだった。
俺とプリシラとディアはゴーレムを足元から見上げる。
ゴーレムの頭部にある巨大な単眼が赤く光って俺たちを見下ろしている。
「あの、これでは家の中に入れないのでは」
ディアの言うとおり、ゴーレムは家の玄関の前に無言で立ちはだかっており、外からの侵入を阻んでいる。
足の隙間からどうにか無理やり入り込めそうではあるが、その途端に踏みつぶされでもしたらたまらない。
困り果てる俺たち。
「なんで通せんぼしてるんだろうな……」
「極度の厭世家なのでしょうか。セヴリーヌさんは」
「あのー、ここはセヴリーヌさまのおうちですかー?」
プリシラがゴーレムに向かって尋ねた。
すると、
「はい。ここはセヴリーヌさまの家でございます」
「しゃべった!」
流ちょうな返事に俺たち三人は目をむいた。
人語を話せるゴーレムなんて聞いたことないぞ。




