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ラジオ室の扉の前にもロッシュローブ教団の教徒がいた。
俺とスセリ、ケイとイリスは少し離れた場所で立ち止まる。
その教徒から異様な雰囲気がしたのだ。
真夜中に幽霊を見たときのような、ぞっとする恐怖。
そいつからはこれまで退けてきた教徒とは明らかに違う気配がした。
ケイとイリスを残し、俺とスセリは慎重に近づく。
互いの言葉を交わせるくらいの距離になると、あちらが先に言葉を投げかけてきた。
「ほう、またお前たちと会うとはな」
教徒がローブのフードを脱ぐ。
その瞬間、俺の全身に怖気が走った。
フードの下から現れたのは青年の端正な顔立ち。
しかし、その表情は石膏でつくられた像のごとき無表情。
鋭い眼は敵を殺すことに特化した刃のよう。
その青年を確かに俺は知っていた。
だが、そいつとは会うこと事態はありえないはずだった。
「……ナイトホーク、なのか」
「私でなければなんだというのだ」
ロッシュローブ教団の幹部、ナイトホーク。
こいつは以前、俺との戦いで自滅して死んだはず……。
死んだ『かもしれない』ではない。間違いなくこいつが死んだところを目の当たりにしたのだ。
「なかなか面白い表情をするな」
死んだ人間が生き返って自分の前にいるのだ。面白い顔をするのも仕方がない。
「ナイトホーク、お前は死んだはずだ。どうしてここにいる」
「私が律儀に答えを言うとでも思ったのか。お前はただ、私がここにいるという事実さえ知っていればじゅうぶんなのだ」
スセリが「やれやれ」と肩をすくめる。
それからたっぷりと皮肉を込めて言った。
「二度も死にたいとは変わったやつじゃのう」
「いいや、次に死ぬのはお前たちだ」
次の瞬間、ナイトホークの姿が消えた。
俺は本能なのか反射神経なのかも自覚できない速度で回避の動作を取った。
ついさっき俺とスセリがいた場所に、姿勢を限界まで低くしたナイトホークがいて、ナイフを真横に振っていた。
スセリが手から魔法の矢を放つ。
ナイトホークはそれを障壁の魔法で防御した。
俺は叫ぶ。
「ナイトホーク! お前はなにを企んでいる!」
「知りたいのか。まあ、これなら教えてやってもいいだろう。我々ロッシュローブ教団はラジオを使い、人々の魔王ロッシュローブが真に善なる存在であるのを周知させるのだ」
やはりそういうことか。
ほぼ想像していたとおりの答えが返ってきた。
「世界を滅ぼそうとした魔王を、どうしてお前たちは善だと信じるんだ」
「アッシュよ」
俺の問いにはスセリが答えた。
「前にも言ったが、こやつらが望むのは平和でも平穏でもない。混沌なのじゃ」




