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「いやー、気持ちがいいのじゃー」
「うふふ、楽しんでくれてるみたいねー。うれしいわー」
しかし、竜の背中に乗せる空の運び屋か。
そんな馬車の馬みたいな役目、プライドの高いアスカノフがよく許してくれたな。
「なあ、アスカノフ」
「なんだ。アッシュ・ランフォード」
俺は前のめりになってアスカノフの顔をうかがう。
彼も目をちらりと動かして俺を見てきた。
「お前は楽しいのか? この仕事」
「……最初は不本意だった。人間の従僕になるなど許せるはずがなかった」
やはり。
アスカノフは「しかし」と続ける。
「小さき存在、弱き存在である人間を我が背に乗せて空に飛ばせてやるのは、やってみると存外愉快だった」
アスカノフは大きな竜翼を羽ばたかせて飛翔しながらしゃべり続ける。
「天空を舞い、おびえる者、よろこぶ者……、反応はさまざまだ」
「他人とのふれあいが楽しいのを知ったんだな。アスカノフは」
「……どうも、この赤髪の女にほだされてしまったようだ」
「うふふ、ありがとー」
よろこぶノノさん。
ほめているのかは微妙なところだが、本人がよろこんでいるのならそれでいいのかもしれない。
「ノ、ノノさま……。ケルタスにはまだ着かないのでしょうか……」
「んー」
視線を上に向けて考えるしぐさをするノノさん。
「もうちょっとだと思うわ」
「ぐ、具体的にはどれくらいでしょう……」
「日が暮れるまでには着くわよー」
プリシラはずっと俺にしがみついて震えている。
ちょっとかわいそうだ。
マリアはというと、さすがに慣れてきたのか天空から見下ろせる大海原を、目を細めて眺めていた。
「竜はこんな景色を自由に見下ろせますのね。尊大になるのもわかる気がしますわ」
そうだな。小さな人間のちまちました暮らしを大空から眺めていたら、誰だって自分が一番えらくて強い存在だと勘違いしてしまうだろう。
「それにしても、ラジオ塔が乗っ取られるとはの」
「スセリはわかるか? 乗っ取った『悪い奴』が誰なのか」
「わからんが、情報を広域に発信できる存在を利用したがる連中はいくらでもいるじゃろうな」
そう言われて俺はようやく気付いた。
ラジオは楽しいおしゃべりや音楽を流すだけではない。
悪いウワサや偽の情報を広めるにもおそろしく有効。
悪用しようと思えばいくらでもできるのだ。
そう考えると、ラジオ塔を最初に使ったのが善良な兄妹だったのはとても幸運だったのだ。
「許せませんわね。便利なものを悪事に使おうと企むのは」
憤慨しているマリア。
「アッシュ。その悪者たち、わたくしたちで徹底的にこらしめてやりますわよ」




